続・遊園地デート
「楽しいですね!」
「そうだな」
水しぶきを上げながらレールを勢いよく下った乗り物を降りた後、如月はそう感想を溢した。これでもかというくらいに、明るい笑みをしている。これでまだ1つ目の乗り物なのだ。全部の乗り物に乗った時には、一体どうなってしまうのだろう。
「楽しすぎて、今日も明日も興奮して眠れなくなってしまうかもしれません」
「それは一大事だな。無理に全部乗らなくてもいいんじゃないか?」
「そうかもしれないですけど、どうせなら全部に乗りたいじゃないですか」
「結構激しい乗り物もあるんだ。一気に乗ってたら、身が持たないだろ」
アレとかと、途中でレーンが逆向きになるジェットコースターを指した。その機体に目を向けた途端ひるんだような顔を見せる如月だったが、どうやらまだ納得はしていないらしい。唇を尖らせて、不満を主張してくる。
そんな彼女に対し、俺はある提案をした。
「また今度来て、それで全部制覇出来れば良いじゃないか」
「次……!」
表情から察するに、今ようやく思い至ったらしい。
「そう、次」
もしかしたら如月も、どこかのタイミングでキスされるかもしれないということで実は緊張したりしているのだろうか。そうであってほしいものだ。
「この遊園地が明日潰れるっていうんならともかく、今はそんな話、微塵も聞かないだろ?」
「そ、それもそうですね。それじゃあ、今日はゆっくり回りましょうか。次はどこに行きたいですか?」
「アレかな」
さっきも指したジェットコースターのほうを一瞥する。彼女は今度は明らかに嫌そうな顔をした。
「早くないですか、ああいうのに乗るのは」
「それじゃあ、如月はなにがいいんだ?」
「空中ブランコとか」
「え、ブランコあるのか」
「はい、向こうのほうにあります」
「じゃあそれにしよう」
「はい!」
○
いかにも商業地で販売されているものらしいカレーを食べながら、午前中までの感想を呟く。
「遊園地が楽しすぎて、キスとかどうでも良くなってきたな」
「あんまりな話ですが、本当ですね」
同じものを食べている如月が、大きく頷いて同意する。
「なんというか、本当に俺はまだ子どもなのかもしれない。キスは恥ずかしいし、遊園地は全力で楽しいし」
「それでいいんじゃないですか? ここに来るのを提案したのは私ですが、ここまで楽しいと、そんなささいなことにこだわらなくても良いなと思えるようになってきました」
「それなら良かった。これからも、ヘタレな俺をよろしく頼む」
「……」
「その間は一体何だ」
「せめて高校を卒業する頃には、ヘタレも卒業しておいてくれませんか?」
「あー……それは多分、頑張ることじゃあないな?」
「頑張って卒業出来るヘタレなら、頑張ってくださいよ」
「こだわらないんじゃなかったのか!?」
「それとこれとは話が別です。もう。北斗さんは一度、キスもされないくらい魅力がないのかなと思い悩む私の気持ちにもなってみてくださいよ」
そんなことを思っていたのかという驚きと、思わせてしまって申し訳ないという思いが同時にこみ上げる。
「それは本当にごめんなさい。魅力なら俺の手に負えないほどあるから、そんな卑屈っぽいこと言わないでくれ」
「分かってますよ。冗談ですから、ね?」
コロコロと表情を変える彼女に、完全に翻弄されている。別に悪くはないと思えるあたり、俺は相当彼女に惚れ込んでいるんだろう。
「……如月さん、俺の扱いがどんどん上手くなっていっている気がしますね?」
「ずっと一緒にいるんですから当然ですよ」
本当に当然であるかの如く、彼女は笑う。
「午後もめいっぱい楽しみましょうね」
「はーい……」
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