遊園地デート

前回の反省を活かし、ふとした『キスしたくなる瞬間』を求めて、如月と俺は遊園地へとやって来た。

「まだ開園前ですね。チケットを買っておきましょうか」

やって来てしまった。

「……ここまでやって来る必要は、果たしてあるのだろうか」

「まだそんなこと言ってるんですか」

如月が、呆れたようにため息をつく。

今日の彼女は動きやすさを重視したのだろう、パンツルックだ。彼女のクールビューティさがより際立っていて、素敵である。

「お褒めいただき、ありがとうございます。っていうか、せっかくここまで来たんです。めいっぱい楽しまなきゃ損ですよ」

「はぁ」

「それに、お金でしたら私が出しますから」

「そこは大丈夫だってば」

「そうですか。安心しました」

そんなにも俺には金がないように見えるのだろうか。いや、それとも……。

「お前、俺がもしギャンブルに行くから金を出してくれって言ったら、お金を出すのか?」

「ギャンブルは基本的に20歳未満且つ学生はやってはいけませんよ」

「そういうことじゃなくってな?」

「分かってますって、大丈夫ですよ。北斗さんは、そんなことにはならないでしょう?」

こちらに向けられる明るい笑顔が、少し怖い。

「……信頼のされすぎも困りものだな」

やれやれと肩を竦めたのもつかの間、彼女に腕を引かれる。

「とにかく、チケットを買いに行きましょう」

「はいはい……」

少しくすんだ色をした売り場でチケットを買い、開いていないゲートの前にある列の最後尾に並ぶ。そこでチケットと一緒にもらったパンフレットを見てどれに乗るかを相談していると、辺りに開園のアナウンスが響いた。

「開きましたよ、北斗さん。急ぎましょう」

急ごうと足を速めた彼女の腕を、今度は俺が引く。

「危ないから走るな。そもそも人が少ないんだから、そんなに急がなくても乗れるはずだ」

「……そうですね」

彼女の足取りが、いつもと同じくらいの速さになった。俺もそれに合わせて、歩みを進める。

「それで、最初はどれに乗るって?」

「この水しぶきがあがるやつです」

「え、もしかして濡れるの?」

最初からそれは、ちょっときつくないか?

「大丈夫です。乗っている人は濡れませんよ。むしろ辺りに水が飛び散るので、歩いているときのほうが注意が必要ですね」

「そうか。それならいいんだ」

「勢いはあるようですが名物のジェットコースターみたく激しくはないようですし、最初にはぴったりだと思うんですよ」

「もしかして、誰かと来たことがあるのか?」

「いえ。ただ、ここに来たであろう人たちの思考を読んだことがあるので」

「ああ、そういうことか」

「それで、この後はなにに乗りますか?」

「もう次を話すのか? 早くない?」

「これからどんどん人が増えるんですよ? 決めておいたほうがいいですって」

「そんなに急いで回らなくても良いだろうに」

「どうせなら全部乗りたいじゃないですか」

楽しそうに笑う彼女を見て、ハッとした。

「……なるほど、分かった。ただ単にお前が来たいから、ここに来たんだな?」

「もちろん」

悪びれもしない、いや悪びれる必要なんて一切ないからなにも間違っていないのだが、彼女の笑みを見て、俺からは深い深いため息が溢れる。

「昨日から今にかけてした俺の覚悟は一体……」

「覚悟はしておいたほうがいいですよ。何時したくなるか分からないじゃないですか」

「……このままだとしない気がする」

「またまたぁ」

「茶化してくれるな……」

重くなった俺の足取りを察してか、彼女がぐいぐいと引いていく。

……まぁ、如月が楽しければそれでいいかと、考えを改めるのであった。 

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