異世界転移
目が覚めたら、目の前に広がる光景が明らかに現代じゃなかった。
「ようやく目が覚めましたか」
そう言って覗き込んでくる如月がいかにもファンタジーの鎧を身に纏っているのを見て、やはりここは現代ではないのだと確信する。
周りを見渡せば、見慣れた人間らもそれぞれ個性の強い衣装を身に纏っていた。その隣には黒背景に白い字で、おそらく各々のステータスが書かれている。
「よりによって、なんで俺が踊り子なんですかね?」
ヒラヒラとしてかわいらしい、どこかの民族による伝統がありそうな衣装を嫌そうに見つめる星川は、その言葉の通りに踊り子。
「占い師の俺よりいいでしょうよ。どうせならもうちょっと戦える職が良かったなぁ」
初期装備なんだろうタロットカードを雑にシャッフルしている幹典も、言葉の通りに占い師。
「弓を引くのって、結構な力がいるんだね」
矢のない弓を引き絞りながらそんなことを呟く小坂は、アーチャーという表示になっている。そして、目の前の如月は魔剣士らしい。どことなく嬉しそうに剣を鞘から出して見つめている。
「……振り回すなよ?」
彼女ならやりかねないと思い、最初に忠告しておく。
「そんなことしませんよ」
「そうか……」
当然とは思いたくないのだが、視線を下に向ければ、自らも着たことのない服装をしていた。全体的に白く、清潔さを感じさせる服装だ。確認出来るステータスには、白魔道士と書かれている。どういう基準でこのジョブが選ばれたのか、一切分からない。
「……これは一体、どういうことだ?」
「容疑者は『番外編とは銘打っているけれど、内容が全然番外編っぽさを感じられない。こうなったらいっそのこと、メインキャラクターみんなで異世界に転移させるしかない。なくない?』と供述しており」
「メタが過ぎる」
「まぁ、そういう空間なんですよここは」
「そんな雑な説明で済む問題じゃない気もするが……」
俺たちに無理をさせてまで番外編っぽさを出そうとしないでほしい。どうせやるとしても、もう少し考えた内容にしてほしかった。とかなんとか言っても、容疑者は聞き入れてはくれないだろうが。悪態を吐くくらいは許されるだろう。
「とはいえ、みんなで良かったですよね。こういう時は、人数が多い方が心強いですし」
「でもこういうゲームって、大体戦うのは4人だよね。誰が控えになる?」
「何故戦うことが前提なんだ?」
俺の言葉に、4人がえっと驚きの声を溢す。失言をしたと思っていなかったので、思わず幹典の方に視線を向けて助けを求めてしまう。
「……せっかく異世界に来たんだし、どうせなら戦いたいじゃん? ね?」
「お前と星川は、さっきまで乗り気じゃなかったのに?」
「職業が不満ってだけで、別に現状は楽しんでる」
「ポジティブだな」
「北斗さんは、魔法を使うことの出来るこの状況を楽しもうとか思わないんですか?」
「ファンタジー世界は最悪死ぬから、楽しむとかそういうのは無理」
「ヘタレだ」
「ヘタレだね」
「ヘタレですね」
「ヘタレ」
「むしろ何故お前らはそんなに現状に適応出来るんだ!?」
そう言葉を発すると同時に、身体の冷える感覚がした。
「……夢、か?」
再び覚めた目が捉えたのは自らのベッドの上で、短いながらも夢を見ていたのだと理解する。服装が間違いなくいつも寝るときに着ている寝巻きだと確認して、そのまま2度目の眠りに落ちていった。
○
「っていう夢を見たんだけど」
「北斗さんがヘタレなのは事実です。まだ私に、キスもしてくれてないので」
「そういうことを普段と同じ声量で言うんじゃないよ」
「悔しかったら、キスの1つでもしてみてくださいよ」
「……もう少し時間をくれ」
「もう少しですね?」
「……かーなーり、時間をもらおうかな」
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