雪の降る頃に

「あっ」

「どうした?」

恒例である放課後、彼女とのたわいもない話。流れで蜜柑の良さを語っていた如月が、突然目を見開いて立ち上がり、窓へと駆けて行った。なにごとかと彼女のほうを見れば、窓の外を向くように促される。視線を白い指に沿って外へと向ければ、そこでは儚くて白いものが舞っていた。

なるほど。通りで冷え込むわけだ。

「雪か」

「そうです! 雪ですよ、雪!」

彼女の声のトーンが、2段階ほど明るくなる。どうやら、雪でテンションが上がっているらしい。

「降るらしいとは聞いていましたが、まさか本当に降るとは思いませんでした」

彼女はぴょんぴょんとその場で跳ね、雪に対しての感動を表している。初めて見たわけでもないだろうに、まるでそんな感じのはしゃぎようだ。たしかに期間限定のものとして珍しさはあるが、あまり喜べるものでもない。

「積もらないといいな」

「どうしてですか? 積もったほうが楽しいですよ。かまくらに雪うさぎ、雪だるまだって作れます」

「あのなぁ……」

一体、どれだけの量に降ってほしいと思っているのだろうか。それは、もう少し北の地にならないと叶わない願いだろう。少なくとも、この県内では無理な話だ。

「明日も学校だ。雪の中歩いてくるのは、寒いだろう」

「防寒をしっかりしましょう」

「しっかりしても、寒いもんは寒い」

「雪が降っても降らなくても寒いんですから、楽しくなるぶん雪が降ったほうがお得ですよ」

「別にお得というわけではないと思うけどな」

「北斗さんには童心というものがないんですか」

「お前にあり過ぎるだけだよ。もっと年相応になってくれ」

もうすぐ学年も上がる。否が応でも受験シーズンだ。来年の今頃には、雪だなんだと言っている場合ではなくなっているだろう。

「そうですよ。だからこそ、今のうちに雪だと騒いでおくんです」

「咄嗟に付け加えてないか?」

「ないですよ、そんなことないです」

視線を回しながら2回繰り返したということは、多分そんなことあるのだ。こんな調子なら来年もはしゃいでそうだなと思いながら、彼女の様子を眺める。

「いいじゃないですか、雪にはしゃぐくらい。むしろかわいいと思ってくれませんか?」

「良さに気付いてからの如月は常にかわいいから、雪にはしゃいでもそりゃあかわいいなぁとは思っているが」

困ったように小首を傾げる彼女も、またかわいらしい。言わずともそう思っていると、ゆっくりと彼女の顔が赤く染められていく。白い肌は、思っていたよりよく赤くなる。

「そんなセリフを、よく恥ずかしげもなく言えますね」

「正直恥ずかしいが、本心だから言えるんだ。お前から見れば、俺はカッコよく見えるだろ?」

「それとこれとは話が別です」

「ひどく傷付いた」

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