番外編

子どもの日

「私に子どもが出来るとするじゃないですか?」

彼女のとんでもない発言に、脳内が一瞬で混乱状態へと陥った。頭の中でラッパがパッパラーと高らかに鳴り始める。『子どもが出来るとするじゃないですか?』だなんて質問、するとしても俺にするべきじゃない。どうせならば、同性の小坂にするべきだろう。番外編だからって、いきなり飛ばし過ぎている。

「そうだな。まずは、どうしてその思考になったのか教えてくれないか?」

「なんとなくですよ。それ以外ないじゃないですか」

「なんとなくでそんなことを考えるものなのか……?」

今時の女子高生は分からない。

「とりあえず、落ち着いて話を最後まで聞いてください」

落ち着けと促されても、あまり落ち着けはしない。対照的に、彼女は本当になんでもないことのように話を続けた。

「私のこの『思考を読む』能力は、子どもにも受け継がれるのかどうかと思いまして」

「あぁ……それはちょっと気になるかもしれない」

「でしょう? たとえば私と北斗さんの間に出来たとしたら、相殺出来るのかどうかも気になります」

「そういうところが重いっていう、自覚はある? あるよな?」

「仮定の話ですよ。仮定の話なので、私と悠真くんの間に出来たとしたらどうなるんだろうなとも考えます」

その言葉にぞわりと全身の毛が逆立つような感覚を覚える。しかし、ここでなんらかの反論をするのも間違っているような気がした。今後のことは、何も分からない。そうなったとしても、おかしくはないだろう。

極めて冷静に努めようとすると、それは逆にわざとらしく見える。彼女は困ったように眉を下げた。

「そんなに真剣に考えなくてもいいじゃないですか」

「そんなことを言うくらいなら、この話を今すぐ終わらせたっていいだろうが」

「そうやすやすと試せるようなことじゃないから、余計に気になっちゃうんですよ」

「お前、普段はどういうことを考えてるんだよ!?」

「ふつうのことですよ。北斗さんのこととか、友達のこととか」

「だからって、その思考に至るのはどうかと思う」

「気になったんですもん。言わずにはいられなかったんですもん」

「『もん』でかわいく片付けようとするな」

「かわいいですか?」

「かわいい」

「ありがとうございます。話を元に戻していいですか?」

「ほかの話題を出すから、ほかの話題について話さないか?」

「例えば?」

「新作の映画とか」

彼女の顔が一瞬でパアッと明るくなる。とても分かりやすい。

「今度あれを見に行きましょうよ」

「どれだよ」

「『戦況』シリーズものの最新作です」

「そのシリーズ、ほとんど見てないんだけど」

彼女はその言葉に明らかに一度不機嫌な顔を見せたのだが、すぐに笑顔へと戻った。

「動画配信サービスに結構来てたので、今度それを見ましょう、一緒に」

「そんなことより、課題をしろよ」

「社会勉強……」

「言い訳するな」

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