40%くらいしか優しくない

「はぁ? クリスマスプレゼント? 俺に聞きにくるなんて、喧嘩売ってるんですか?」

爽やかな顔が一変して、こちらへと睨みをきかせてくる。もう慣れたけれど、あまりいい気分では無い。こうなるだろうとは思ったが、聞かずにはいられなかった。

「あ、いや。一般人の感覚を参考にしようかと思って」

彼の口から、深いため息が溢される。

「そんな露骨に悲しそうな顔しないでくださいよ。俺が悪いみたいじゃないですか」

「ごめん」

「多少ムカつきますけど、俺に対する嫌がらせじゃないってのは分かります。アンタのことだから、本当に参考にしに来たんでしょ?」

「あぁ、本当に参考にしに来た」

「とは言っても、俺は『ラノベの主人公か』ってコメントがすぐに出てくる人間なんですよ? 一般人だと思いますか?」

「……なるほど?」

あの時は無我夢中で、そこまで気にかける余裕なんて無かった。今言われてみると、それは一般人という感覚からは少し遠いかもしれない。

「でも、俺の知り合いの中で最も一般人度が高いのは星川、お前なんだ」

「一般人は、人の思考を読む能力を遮断する力を身につけるために修行しに行きませんって」

ま、それも無駄になったけどと付け加える彼は、ここへ来て確かに一般人ではないような気がしてきた。それでも、参考に出来る意見を言ってくれそうだという思いは変わらないので、絶えず問いかける。

「……昔からの如月の知り合いということで聞こう。何が良いと思う?」

「人に聞くな。自分で考えて、自分で責任を取れ」

彼はそうとだけ言い残し、背を向けて去っていった。彼の背を見慣れてしまった自分に驚く。残された言葉は正論で、しかし、それが出来れば苦労しないんだとため息を吐いた。自分は、彼のようにはなれない。



「クリスマスプレゼント? なに? くれるの?」

あまりにも真剣な表情でそう問いかけてくるものだから、一瞬なにをあげるべきか本気で考えた。如月にすらあげるものが決まっていないのに、小坂にあげるだなんて難題……いや、選択肢は1つしかないか。

「……蜜柑でいいか?」

「んや。クリスマスプレゼントっていうのなら、サンタブーツが欲しい」

「あの、赤くてお菓子が入ってるやつか?」

「そうそう、それ。やっぱりクリスマスには、サンタブーツが欲しくなるよね」

そう明るい口調で宣言されるが、クリスマスブーツにあまり縁のない生活を送ってきたので、共感出来ない。

「処分に困りそうだ」

「そういう夢のないこと言わないの!」

確かに、クリスマスというものはサンタという存在が出てくることといい夢のあるものだ。そこで処分前提の話をするのは、夢がないと言われてしまっても無理はないだろう。

「悪い」

この思考が、まず良くないのかもしれない。どうしたものかと、頭を悩ます。

「那緒にあげるものも、実用性とかなんやかんや考えたりしてるの?」

「まぁ、そうだな。出来る限り、喜んでもらえそうなものを贈りたい」

「まだ付き合って日が浅いし、きっと何を贈っても喜ばれると思うよ」

「そういうものか?」

「ただし、今後何かしらの壁にぶつかった時の判断材料にはなりうる」

「あぁ……」

今後何かが起きるとは思いたくはないが、起きる可能性は十分ある。絶対にないとは言い切れない。慎重に選ばなければならないと分かった上でもう一度彼女に何が良いだろうか聞こうと思ったところで、予鈴が鳴った。タイミングが悪い。

「悪い、また聞く」

「りょうかーい」

次が移動教室ということもあり、彼女に別れを告げて一旦教室へと戻った。頭の中に、クリスマスブーツが1つ転がる。



「おっ、いいねぇその表情。悩める子羊って感じで」

彼は声を上げて笑いながら、俺の前へと弁当を置いた。なにが子羊だよ。

「馬鹿言うな」

ため息しか出ない。

「俺の見解はね、指輪」

箸を割りながら言った彼の言葉が一瞬では理解出来ず、しばしの間を空けたのちに吹き出してしまった。指輪。指輪って。彼はこちらの反応を予想していたのか、得意げに笑いながら卵焼きを頬張っている。良い黄色が、彼の口の中に消えていった。

「お前らしいチョイスで好き。ついでに理由も聞きたいんだけど、なんで?」

「人との付き合い方が分かってない感じが、逆に初々しいかなって思って」

「それ、向こうも指輪だったらどうする?」

「結婚しちゃいなよ。ウェルカムボードだっけ? かくよ」

「そうか、ありがとう」

軽い調子で返し、ケラケラと笑い合う。しばらくそうやって深く考えないようにしていたが、それもすぐに終わり真顔になってしまった。

「重たいわ。同じアクセサリーなら、ネックレスとかブレスレットの方がまだいいだろ」

「多分、それがお前の答えだろ?」

「まぁなぁ……」

それはそうなのだが、そう出来ない理由がある。

「お前なら知っているだろうが、きちんと言葉にして伝えよう。俺には、壊滅的にセンスが無い」

「店員さんに聞けばいいだろうに。どういうデザインがイマドキの女の子に人気ですか? って」

「人気なのと、アイツが気に入ってくれるかどうかは別だろう」

「那緒ちゃんって素直だし、流行りのデザインとか気に入ってくれそうだけどね?」

「今気に入ったとしても、のちのちの判断材料にされるんだってよ」

「誰に聞いたんだよ、それ。もうそんなこと考えてんの? 早過ぎない?」

「ウェルカムボードかくとか言う人間がそれを言うかよ?」

「テヘッ」

「やめろ」

「答えが最初から自分の中で決まってるのに人に聞き直すのは良くないと思う」

「正論もやめろ」

まったく、優しさがあるのかないのか、よく分からない人間ばかりだ。

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