活用の日

「クリスマス、普通に学校でしたね」

如月は、12月の日程表をまじまじと見ながら呟いた。終業式は27日。クリスマスは、ただの平日で登校日ということになる。清掃の時間が伸びたりはするかもしれないが、登校下校時間は変わらない。至って普通の日になるだろう。

「どうする? そのあと冬休み入ってからの土日でもいいが」

「制服デート」

嬉しそうに呟く彼女に同調しかける自分に、理性的な自分が待ったをかける。

「不純異性交遊として、学校へ連絡が入る可能性が上がるだろ」

上がっていた彼女のテンションが急降下した。こちらを見る視線が、徐々に険しくなっていく。俺をそんな目で見たってどうしようもないのに。

「どのへんからが不純なんですか?」

「人による。この前も全校集会で、生活指導の先生が言ってた例もあるしな。手を繋いで帰ると誤解される恐れがあるのでやめましょうって」

「聞いてません」

「聞けよ」

「それは、一体何をどう誤解するんですか?」

「知らん。なんにせよ、制服で外を歩き回るのはリスクを伴う」

「今まで散々2人で帰路を歩いたりしてきたので、今更だと思いますが?」

言われてみれば、何度も2人で帰路に着いていた。手を繋いだりなんだりはしていないが、男女で帰路に着くだけで色眼鏡越しに見られているだろう。

「クリスマスですし、皆さんきっと浮かれているはずです。私たちだって、浮かれてもいいんじゃありませんか?」

よく分からない理論を言われても、素直に頷けない。渋る俺の手を握り、ブンブンと振り回す。痛くはないが、素直にやめて欲しい。そう思えば、彼女はブンッと一際大きく手を振った後に手を離してくれた。

「じゃあせめて、プレゼント交換をしましょう!」

「それはお前がプレゼントが欲しいだけだろう?」

「交換なので。一方的なものじゃないので、セーフです」

「セーフって……」

プレゼントが欲しいのは間違いないらしい。

「もちろん。ですが、安心してください。私から贈られるプレゼントも、期待して良いものですよ?」

自信ありげな彼女を見て、既に準備を始めていることへの驚きと申し訳なさを感じる。自らは、プレゼントのことなんて頭になかった。

「驚きです。クリスマスといえば、プレゼントじゃないですか」

「サンタからプレゼントを貰えなくなって、久しく経つんだよ」

「早めにサンタの正体に気付いたとか?」

「そういうことだ」

隣の席から聞こえてきたプレゼントのレシートが親の財布から出てきたという話を間に受け、こっそり親の財布を盗み見た年が最後だった。以降は、親の手から直々に現金を授かる日となっている。

「私のところも、今は似たようなものです」

「それでも、クリスマスにはプレゼントなんだな?」

「大々的に街頭でクリスマス特集とかやってるじゃないですか」

「安心しろ。俺は休日にほとんど外へ出ない」

「何も安心出来ません」

『冬休みも私がどこかに連れ出さなければ』という小さな呟きは、聞かなかったことにする。どうせ連れ出されてしまうのだろうが、今は何も聞いていない。

「それで? 制服でイルミネーションでも見に行くのか?」

彼女の顔に、明かりが宿る。

「そうしましょう。この近くだと文房具屋さんのある通りがクリスマス頃にはいい感じにイルミってるでしょうし」

「イルミってる」

「イルミらず、イルミりて、イルミる、イルミれば、イルミれ」

「活用させるな」

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