約束の日

「本気で行かないなんて、聞いてないぞ」

修学旅行から帰った翌日。勢いで訪れた如月の部屋で、そう言った。彼女の部屋は白く、先日行った小坂の部屋に比べて物がない。

「聞き入れなかった、の間違いでは?」

そうだ。冗談だと思っていた。そう思っていたかっただけかもしれない。

「私がいたら、班をつくるのが大変でしょう?」

それはそうだろうけど、だからと言ってお前が遠慮するのは間違っているんじゃないのか。行くならば行くで、どうにかなったかもしれないのに。続く言葉など知っているかのように、彼女は軽く笑った。少しだけ無理に作ったような笑みに、心が痛む。けれど、過ぎてしまった時間はもう戻らない。考えるならば、未来のことを。

「いつか、なにかしらの形で旅行でも行けたらいいな」

「いつかと言わず、今度行きましょう」

即座に返ってきたあまりにも好意的な返事に、こちらがたじろいだ。

「いや、さすがに、急には行けない」

「クリスマス」

その単語に、思わず生唾を飲み込む。

「デート、しましょう」

続いた言葉に、しばらく言葉を失ってしまった。デートとは、あの、デートのことだろうか。

「そうです。あのデートのことです」

「あのデートのこと」

ゲシュタルト崩壊してしまいそうな頻度で、デートという言葉が発されている。混乱して来た。対照的に、彼女の顔は綻ぶ。

「今度は、本当の意味でのデートですね」

以前のデートは、友だち同士のお出かけをそう称したものだった。他にも、色々な場所に行き様々なことをしてきたが、恋人となってから『デート』はしていない。

「……そうなりますね」

「予定、空けておいてくださいね」

「分かった」

「それで、お土産はなんですか?」

期待の込められた視線に、うっと呻き声を上げそうになる。デートの約束をするときよりも、お土産の入っている袋を見つめる目の方が明るい。

「あっ。4人からも、お土産を預かって来ているんですか?」

「あぁ。今日ここに来たのも、あいつらに後押しされたからっていうのもある」

彼女が固まり、顔を覆った。プルプルと、肩が震えているように見える。予想だにしていなかった人の優しさに打ち震えているのだろうか。

「お土産、お返し、分からない」

「急に片言になるなよ」

「だって、決められたお小遣いの中でわざわざ私へのお土産へお金を割いてくれたんでしょう?」

「あいつらは、そんなことを気にするような人間じゃないだろ? お礼はもちろん言うとして、気が落ち着かなければなにか返せるものを返したらいい」

……はずだ。彼らがなにを考えているかを完全に理解することは出来ないが、俺が彼らの立場だったらそれでいい。4人からのお土産の入った袋を差し出す。彼女はしばらく躊躇っていたが、やがて持ち手へと手を伸ばした。自らの方へと持っていき、袋をゆっくりと抱きしめる。

「分かりました。そうします」

「ああ」

「それで、北斗さんは?」

「これだ」

差し出したのは、1つのストラップ。袋を一旦置き、彼女はまじまじとそれを見つめ続ける。やがて、ゆっくりとそれを手に取った。

「……なるほど?」

ストラップには、布で作られたマスコットが付けられている。それは蜜柑を模したキャラクターの一種であり、彼の黒々とした目と目が合った瞬間にこれしかないと思い込んだ代物だった。

「かわいいし、蜜柑だし、良いと思ったんだけど」

「安直ですね」

「悪いか」

「最高です。ありがとうございます」

「それはどうも」

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