5分前到着

「遅いですよ! 何やってたんですか!?」

目が合った途端、星川から怒りの声が飛んでくる。時間には間に合っているはずなので、彼が怒っている理由が分からない。だがそれは、いつも通りと言って良いだろう。私服の彼もまた格好良く、提げている紙袋も立派な物に見える。金額が指定されているので中身まで大層なものが入っているということはないだろうが、彼のことなので如月宛てに入っているかも知れない。なんかすごい蜜柑とか、高級な蜜柑のお菓子とか。そんな思考が筒抜けているかのように、彼は呆れた視線をこちらへと送ってくる。本当になにかあったのかも知れないと、1メートルほどを軽く走った。

「どうしたんだよ」

目の前に、彼のスマートフォンの画面が突きつけられる。

「これ、見てないんですか?」

画面上部には見覚えのあるメッセージが並んでいた。見せられている画面は、ハロウィンパーティについて話し合っているメッセージ一覧らしい。中心部から日付が今日になっており、知らないメッセージと画像が並んでいる。

「見てない」

「じゃあ、今読んでください、すぐ読んでください」

「ちょっと待て」

『ごめん! 2人で準備してるんだけど、ちょっとゴタゴタして迎えに行けなくなっちゃった☆ 地図を載せておくので、頑張ってたどり着いてください♡』

キラキラしたメッセージと一緒に送られている地図は、なんと手書きだった。時折挟まれている文字は如月ではないが、図に関してはどちらとも言えない。学校から本当に近いため、なんとかたどり着けそうではある。

「それで、どうしてお前は怒っているんだ?」

「宇佐美北斗は約束の10分前に来る男だと思っていたのに、失望しました」

「……期待値が高いのか低いのか分かりづらいな」

いつもならばそうしていたところだが、今回は放心していた時間が長かったので5分前になってしまった。それでも間に合っていることには変わりないのだが、ここで反論して無駄な時間を使うべきではないだろう。

「一応間に合ってるんだから、許してくれないか?」

「みかんの家まで、無事にたどり着けたら許しましょう」

星川まで『みかん』呼びなのか。もしかしたら小坂も幹則と似たタイプなのかもしれないなと思いながら、目の前のスマートフォンを手に取ろうとした。その瞬間、彼が勢いよく離れていく。距離にして3メートル。歩道から出てしまっている。

「なんで俺のを取ろうとしてるんですか」

信じられない物を見るような視線が、皮膚を貫き心まで突き刺さる。

「いや、地図を見ようと思って」

「自分のを、使ってください」

確かに、スマートフォンには個人情報が詰まっているし、そうではなくとも出来る限り人に触られたくない物だろう。幹則に対するノリで接してしまったのはまずかったな。彼は友人と言って良いのか分からないし、もう少し節度を以て接するべきだった。

「分かった。軽率な行動は謝る。ごめんなさい。とりあえずそこは危ないから、こっちに寄ってくれないか。パーティの前に事故とか、洒落にならないし」

「……そうですね」

彼は仕方ないですねと言いたげに、深いため息を溢しながら距離を詰めてきた。しかし、先ほどよりも少し距離が置かれている。警戒心が強い。どちらかというと嫌われているだろうし、それも当然か。

「何見てるんですか。ほら、早く行きましょう」

如月がいれば、少しは大人しくなるかも知れない。小坂の家までの辛抱だ。

「はいはい」

自らのスマートフォンを取り出し、誰かさんお手製の地図を開く。地図を傾けながら、先を行く星川の跡を追った。

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