立ち止まる日
「そう言えば、いつの間に小坂と仲良くなったんだよ?」
彼女の足取りが一瞬だけ止まった。すぐにまた歩き始めたけれど、表情はあまりよろしくない。聞かれたくないのか、俺に言いたくないのか。
「別に、無理に答えなくてもいい」
「じゃあ、秘密です」
「またかよ」
「また?」
「いや、こっちの話」
「それより、みかんで思い出したんですけど」
「なにを?」
帰路もちょうど半分ほどに差し掛かったところで、彼女は唐突に話を切り出した。
「みかんさんが」
言葉が喉に詰まったように、続くはずの音が出てこない。周囲を警戒するように見回した後、露骨な咳払いをする。どうやら、まだ呼び捨てには慣れていないようだ。幹則の時は早かったというのに。
「みかんというと、どうしても別のみかんが思いついてしまうんですよね」
「それとこれとは話が別なんじゃ」
「とにかく!」
「はい」
「みかんからの提案で、次の土曜日の午後からハロウィンパーティをするんです。予定さえ空いていれば、北斗さんもどうですか?」
「ハロウィンパーティ?」
「はい、ハロウィンパーティです」
気取ったように発音したかと思えば、恥ずかしそうに小さく笑った。口角が上がるのが抑えられない。平常心、冷静沈着。
しかし言われてみれば、今の世間にはカボチャや魔女といったモチーフが溢れているような気がする。もう10月も終盤か。今はまだ先だと思うクリスマスもいつのまにか過ぎ去って、気が付いたら年が明けてしまっているかもしれない。
「それはいいけど、なにをするパーティなんだよ?」
仮装やトリックオアトリートをして回るには年齢層が高いし、収穫感謝祭という柄でもないだろう。
「1人800円以内でお菓子やジュースを持ち寄って、パーッと騒ぐらしいです」
「……まぁ、そうだろうとは思ったよ」
要は、ハロウィンにかこつけて遊びたいだけだ。それならそれでただのパーティでいいのではないかと思うが、そこは気分の問題というやつなのだろう、きっと。
「どこで?」
「みかんの家です」
「大丈夫なのか、それ」
「親御さんに許可は取っているそうです。学校から近いらしいので、いったん校門前に集まってから行くことになりますね」
「他には誰か来るのか?」
「悠真さんと」
悠真さん?
「予定が合えば、幹則も来るらしいです」
思わず立ち止まってしまった。星川のことを名前で呼ぶ如月に動揺が隠せない。
幹典、みかん、そして悠真さん。
そう言えば、俺は?
「それで、どうするんですか? 北斗さん」
もう目の前に俺の家が見えている。彼女は、こちらの返答を待つように立ち止まった。そうか、俺が如月那緒を名前で呼んでいないだけだ。
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