自覚

午前中の間に、出されていた週末課題は終わらせた。その合間に、授業の予習も出来うる限りはした。小テストに関してはやや不安も残るが、起床後や休み時間にもやれば間に合うだろう。

リュックサックの中身を整理し、明日の準備を終わらせる。目に入った時刻は、日付が変わる15分前。就寝準備を終え、布団へと入る。

目を閉じて思い返すのは、昼頃に幹則から送られてきたメッセージだ。例の転校生は、明日から幹則のクラスにやってくるらしい。今まで県外にいた彼にとって、クラスが違うというのは些細な問題だろうし、間違えなく如月の元へやってくるだろう。中学生の時の再来にならなければいいのだが、彼は自らの影響力を正しく理解しているのだろうか。そもそも彼は、彼女が受けていた仕打ちを知っているのかどうかも怪しい。もしも知っていたのなら、自らを責め立て恋心もろともなかったことにしそうだというのは、想像が過ぎるだろうか。彼女は重いと断言したが、言い方を変えれば一途と言うことだ。理由は分からないが、彼は一途に如月を慕っている。俺はああはなれない。

ため息のような、文字にならない言葉が口から出ていく。暗闇を見つめ続ければ、ぼんやりと見えてくる天井。

『私のこと、お嫌いでしたか』。

頭の中で数十回目と繰り返した言葉が反響する。

「……馬鹿だな」

嫌いなわけがないだろ。嫌いじゃないからこそ、彼女には泣くほど望んでいた普通の生活を送ってもらいたかった。誰の声も聞こえないのなら、相手の悪意を直接浴びることもない。なにより、好きだった映画にだって心を穏やかにして行けるようになる。

だというのに、愚かな自分は彼女が転校生の元へ行ってしまうことを恐れている。彼の性格がどうこうという問題だけではない、出来ることなら、誰の元にも行ってほしくない。

俺は、如月那緒のことが好きだ。

彼女が今もなお以前と変わらない調子で自らと話していることに、期待を抱いている。彼女がこちらを見て笑う目の温かさに、あろうことか好意を感じてしまう。なによりも、彼を拒絶していることに安心している自分が憎たらしい。あぁくそ。馬鹿なのは自分じゃないか。口元から自嘲の笑みが溢れる。好きだと思う衝動の抑え方なんて知らない。もうとっくに気付かれてしまっているだろうか。気付いているからこそ、ああやってにやにやとした笑みをこちらに向けてくるのかもしれない。こんな土壇場でようやく自らの感情に気付いた鈍感人間のことだ。笑いたくもなるだろう。

ただ、こんな形で好意だと自覚してしまっていいのか、この感情は女子の友人がいないから友情を恋情だと勘違いしているだけじゃないのかという疑問が、ないわけではない。だが、もはやそんな疑問では抑えつけられないほどに、俺は如月那緒のことを好きになっている。

たとえ考えていることを知られたっていい。いや、よくはないな。よくはないけれど、それでもいいと思えてしまう。驚くべきことだ。

それを自覚した今。明日からは、どうやって接するべきなのだろう。無論考えても仕方のない話であり、睡魔は徐々に俺の意識を奪いつつある。いつも通りにやればいいかとぼんやりした思考は考えることをやめ、目を閉じ眠りへとついた。

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