シェアの日

彼が如月まで残り1メートルまで迫ったとき、如月の後ろから彼に声がかかった。

「星川じゃん!? 久しぶりだな!」

親しみのある声に、彼は伸ばしかけた手を引っ込める。

「あぁ、久しぶり」

比較的さわやかな笑顔で、声の主へと向き直った。ようやく校門へとたどり着いた頃には、日常会話へと話が移行している。声をかけたのは部活動の終わった男子生徒の内の1人のようだ。彼を始めとしたグループの大きく明るい声は、周囲の注目を集めるには十分だったらしい。

「うわ、本当に戻ってきたんだ!」

「噂のイケメン転校生じゃない、あれ!?」

あれよあれよという間に、彼を中心とした人だかりが出来上がった。良識ある人間が、帰宅する生徒に配慮して彼らを敷地内の広い場所へと引き寄せる。その際に一瞬だけ見えた如月を見る視線は、なんとも切なげであった。

「なぁに、あれ」

「……分からない」

なんなら、分かりたくもない。

「北斗さん。大丈夫でしたか?」

いつもより強い語気で、心配するような表情をした彼女が言う。

「あ、あぁ」

「彼、何か言っていませんでしたか?」

「やっと如月さんの前に立てる、とは言っていた」

最後まで言い終わらないうちに、彼女の顔が暗くなった。やっぱりという言葉が力なく溢れ出る。心配するべきはこちらの方なのに、うまく言葉が出て行かない。不安そうな如月を気遣ってか、小坂は如月の手を取った。

「よっし、じゃあ! 北斗君のおごりで、どこかに食べに行こうか!」

極めて明るい口調と表情で、そう宣言した。いや、宣言された。如月もまさかそんな提案をされるとは思っていなかったのだろう。握られた手と小坂の顔を、驚いたように交互に見つめている。

「なんでそうなるんだよ」

「厄介事を連れてきたのが君だからだよ。大丈夫。大衆的なファストフード店でいいからさ!」

「さ! じゃない」

「那緒ちゃんはどう思う?」

「さ、賛成です」

「じゃあ、決まりだね!」

小坂が向ける明るいの笑みに対して、戸惑いながらも微笑みを返す如月に思わず安心してしまった。流されやすそうなのは心配だが、如月が同性と友達らしくしている姿にはかなりの感動を覚える。そんな心持ちの中、小坂の要求を無視するのは気が引けた。

「分かった、行こう。ちゃんと親御さんに連絡はしろよ」

「はーい」

小坂は通話で用件を伝え、如月はメッセージを打ち込んでいる。自らも母親にメッセージを送り、承諾の返信を確認したのちスマートフォンをポケットへしまい込んだ。

「……だいたい、なんで2人一緒にいるんだよ」

「蜜柑を一緒にシェアしてたんだよ。ね-?」

「ね、ねー?」

華麗に取り繕った言葉が嘘であると、如月の泳いだ目が証明している。なんでちょっと嬉しそうなんだよ。

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