生徒総会の日
玄関へ向かう途中、生徒会室の札が下げられた教室を通り過ぎた。電気が付いているので、今なお話し合いが行われているらしい。あんなことがあった後だ。無理もないだろう。
「異様なほどに盛り上がった生徒総会でしたね。私も珍しく、眠らずに聞き入ってしまいました」
「いつも起きてろよ」
大体、お前が座っているのは最前列じゃないのか。
「そうですけど、どうかしました?」
……まぁ、彼女に注意をしようなんて無謀な人間がいるとは思えない。今回の生徒総会の内容と重ねて、ため息が出る。
「随分と陰湿な論争だったな」
6限目に行われた全校生徒総会にて、一般生徒と生徒会長の争いが起きたのが数時間前。確か内容は、部活動に関するものだったと思う。人に聞けと言っておいてなんだが、俺自身は激化する両者の口調に聞くのが嫌になり、別のことを考えていた。
「あんなにも攻撃的な態度をとらなくなっていいだろうに」
「『それは貴方個人の理想であって、一般生徒にとっては押し付けでしかないと思います。その点については、いかがお考えでしょうか?』でしたっけ」
「よく覚えてるな」
生徒会長に反論した生徒の真似だろうが、相変わらず誰にも似ていない。ただの如月である。
「クラスの皆さんが繰り返し言ってたじゃないですか」
そうだっただろうか。
「まったく覚えてない」
「どこにいるんですか、貴方は」
「っていうか、覚えるものでもないだろう、それ」
「誰が覚えてきたんでしょうね」
「お前じゃないのか」
「違いますよ」
「じゃあ、誰なんだろうな」
特定できるほどクラスの人間を知っているわけでもないので、これ以上は考えようがない。靴箱で上履きと靴を入れ替え、玄関から外へ。吹いている風が少し冷たく、秋はもう始まっていることを教えてくれる。
「もちろん一般生徒にも思うところはあるのでしょうが、生徒会長サマの後ろには先生方もいらっしゃいますからね。彼ばかりを責め立てるのは、お門違いとも言えるでしょう」
「責め立てること自体が良くないと、俺は思う」
「その場で声をあげたら良かったのに」
「そんな勇気はない」
こんなことを言っている時点で、責め立てる側、囃し立てる側となんら変わりないのだろう。嫌な話だ。
「まぁでも、生徒会室をすれ違った時、彼はこう考えてましたよ」
「なんて?」
「『なかなか有意義な討論だった。普段からこれくらい盛り上がればいいんだけどな』って」
「タフだな」
「生徒会長サマは、そうでもないと務まらないのかもしれません」
「流石学園モノで最強とさせられる肩書き、生徒会長」
「はぁ」
「そういうものだろ……!?」
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