夏期講習の日
夏休みに入った。とはいえ、ほぼ強制参加である夏期講習と言う名を冠した延長授業のために登校する日々。
講習後には、秋の文化祭で何を行うかの話し合いだ。原則、2年生は体育館の舞台を使用して、劇やらなんやらを披露することになっている。このクラスは、それに倣うらしい。権威のある人間が活発に意見を出し、彼らの中で決まって行く。どうせ、役割分担は2学期に入ってから決めるのだ。早く帰りたいと思いながら、その場が過ぎるのをじっと待っていた。
○
3日後。ようやく我がクラスの出し物は『白雪姫』ということになった。多数決というのは便利だ。
それに伴い、各自で夏休み中に最低1回は白雪姫の本を読んでくるようにとの要求が出された。
「家に絵本がないので、図書館に行かなければなりませんね」
「ご利用お待ちしております」
咄嗟にそんな言葉が口をついて出てしまったが、話し合いの最中から思っていたことがある。
「いっそのこと、学級図書として借りてくればいいんじゃないだろうか」
「学級図書ですか。久しぶりに聞きました。高校にもその制度ってあるんですか?」
言っておいてなんだが、利用したことはないし、利用している人間を見たこともない。
「今度司書の先生に聞いてみる」
「もしも借りることが出来た場合、クラスの人に言わなければなりませんね」
そうだ。認識してもらわなければ、読んではもらえない。読んでもらうためには、俺がある程度目立って本の存在を知らせる必要がある。
「……やめるかぁ」
「多数の人が内容を知らなくても、きっと脚本担当の方がどうにかしてくれるでしょう」
「そうだな」
それにしても、白雪姫か。鏡に向かってこの世の美しい人を問いかける王妃と、毒林檎がまずイメージとしてあげられるだろう。
「ネクロフィリアの王子様が出て来るお話しですね」
「その認識やめろよ」
説によれば間違っていないかもしれないが、あまりピックアップしていい特徴ではない。
「ネクロフィリアの王子様が、生き返った白雪の姫を好きになれたのでしょうか?」
「白雪姫と言うくらいなんだ。彼女本来の顔が、死んでいるように白かったんじゃないのか?」
「私のように?」
隣にいた彼女が、一歩踏み出し目の前へ来る。黒くて長い髪と瞳、白い肌。改めて見ると、白雪姫という言葉が確かに似合う。
「そうかもしれない」
脳内で彼女にお姫様のようなドレスを着せ、肩や腕にリスや鳥を乗せてみた。やがてその動物は、地へと落ちる。
「お前は、触れ合った森の動物たちを殺していきそうだ」
彼女は、目を細めて笑う。肯定も否定もしないまま、隣へと戻った。
「楽しみですね、文化祭」
「まぁ、ほどほどに」
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