アイスの日
「どうだった、進路相談」
「問題ありません。そちらは?」
「こっちも、問題はないな」
「あ、そう言えば」
「どうした?」
「最悪、占い師になれって言われました」
「あー……」
言いたいことは分かる。相手の考えていることが分かるというのは、占いを信じさせる上で有益な能力だろう。それを生徒に勧めるのは如何かと思うが。
「担任は、お前の噂肯定派か」
「みたいですね。そういう不可思議なものも存在してた方が面白いだろうって」
「面白がるなよ……」
「変に怖がられるよりずっといいですよ」
「そうですか」
声を聞くに、どうだっていいのだろう。それを俺が深く気にするのも、おかしな話だ。
気を取り直し、アイスケースへと目を向けた。今の気分と相談して、味を選ぶ。外の暑さからして、さっぱりしたものがいいな。ソーダのシャーベットにしておこう。カップなので、溶けてしまったら冷凍庫に入れて凍らせればいい。隣の如月は、まだ悩んでいるようだ。
「蜜柑があれば即決なんですけど、ないので難儀してしまいます」
「オレンジは?」
「難儀してしまいます……」
NPCのように同じ台詞が返ってくる。オレンジは受け付けていないらしい。
「蜜柑のゼリーを買って、帰ってから食べたらいいんじゃないか?」
「棒付きアイスを学校の帰りに食べるって、ちょっと憧れるじゃないですか」
「いや、分からない」
「流石の私も、1人の時にやる度胸はありませんからね」
人の話を聞かない彼女は、最終的に棒付きのバニラアイスを購入した。店から出て瞬時に袋を剥ぎ、外にあるゴミ箱へそれを捨てる。アイスを口にして、満足そうな表情を浮かべた。直射日光を浴び、アイスはみるみるうちに溶けていく。彼女はそれを、小気味好い音を立てながら噛んで食した。残った棒には、消えそうな文字で「ハズレ」と書いてある。棒も、ゴミ箱へ。再び帰路につく。
「憧れていたことをやってみた感想は」
「今度やる時は、北斗さんもやりましょう」
「なんでだよ」
「なんでもです」
「その返しやめろ」
出会った当初を思い出して、鳥肌が立ってしまう。あの頃は、といってもまだ数ヶ月しか経っていないのだが、過ごしやすく穏やかな気候だった。
今ではどうだ。上からは日差しが照り、下からはコンクリートの反射した熱気が迫る。蝉の鳴き声が四方八方から聞こえてくるのも、暑さを助長しているようだ。早く家に帰って、冷房の下で寝っ転がりたい。
「もうすぐ夏休みですね」
しみじみと彼女は呟く。
「休みと言っても、実際に休める期間はほとんどないけどな」
「夏休みってだけで、ワクワクするじゃないですか」
「生憎、そういう純粋な気持ちはもう持ってないんだよ」
「じゃあ、北斗さんは夏休みなにをするんですか?」
「積んでいるゲームと本を消化する」
あとは幹典と遊ぶくらいだろうか。いつもの休日と、なんら変わらない。
「夏なんですし、お祭りとか行きましょうよ」
「誘ってくれたら行かないこともない」
「い、いいんですか」
言い始めたのはそちらだというのに、彼女は動揺している。断られると思っていたんだろうか。
「断る理由がないから」
「何日前くらいに、連絡すればいいですか?」
「前日か当日でいい」
どうせ予定もないのだ。
「先約があった場合は断る」
「当然ですね」
そうこう言っているうちに、俺の家へ着いた。
「分かりました。ではまた、明日」
彼女が手を振る。
「あぁ、また明日」
手は振り返さずに、彼女の背中を見送った。
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