続・依頼の日

放課後の図書館。入ってきた俺と如月を見て、当番をしている後輩が苦笑いをした。本の返却、貸し出しのためにも来ているから許してほしい。

「悪い。よろしく」

「私のもお願いします」

「はぁい」

手際の良い返却手続きだ。

「ありがとう」

「どうもー」

図書館を見回すと、今日も人がいない。これなら、入ってくるだけで誰が依頼人か分かるだろう。それでも、突然の来訪者は避けられない。依頼者が入って来たら、合図を送るようにはしてある。というか、それくらいしかやることがない。俺が側にいては如月は能力を発揮出来ないので、入り口付近にて相沢康太らを待つ。如月は、奥の本棚の裏にいるはずだ。目線を向けると、真顔でピースをしている彼女の左半身が見える。怖いわ、やめろ。

そうこうしているうちに、扉の開く音がした。振り返って目に入る爽やかな風貌をした男が相沢康太だ。となると、その隣で笑っている子が田所みずきなんだろう。如月よりも小柄で、可愛らしいという言葉が似合う子だ。咄嗟に如月へと視線で合図を送る。気付いた彼女は、ピースしている手を引っ込めた。相沢らは、こちらへ聞こえない程度の会話をしながら本を選んでいるようだ。図書館という場所が不安だったが、慣れたような雰囲気を感じさせる。俺が知らなかっただけで、図書館の利用者なのかもしれない。ありがたい事だ。

さて。如月が以前の説明のように読めなかった場合、俺へとそれを知らせ、相沢くんが見て分かるように形として本を読むことになっている。しかし、時折彼女の方へと視線を向けても隠れていて見えない。問題はなかったということだろうか。

「北斗さん」

「えっ」

いつの間にか、彼女は目の前へ来ていた。青い顔をしながら、俺の服の裾を引いている。

「なに?」

「行きましょう」

「どうして」

俺としては本を借りるつもりで来たので、事情も説明されずに出て行くわけにはいかないんだが。

「お願いします」

引き摺られるように、図書館を後にした。俺の意思はそこにはない。仕方なく裾から手を退け、彼女を追って歩く。教室へと戻ると、彼女は自らの席へ深く座りため息を吐いた。

「どうしたんだよ、一体」

俺は机の上に置いたままの筆箱などをリュックへ入れ、帰る準備をする。彼女は、既に終えているようだ。

「彼女は、間違いなく彼のことが好きです」

「なら良かったじゃん」

「しかし、その想いは深く、そして重いものでした。気軽に聞いていいものじゃなかったんです……」

ふるふると震え、自らの肩を抱いている。よほどのことを聞いてしまったらしい。ほぼ毎日様々な思考を聞いている彼女が、こんなにも怯えてしまうだなんて。

「お前、そういう感じの人間とエンカウントする可能性が高くないか?」

「どうしてでしょうか……」

「お前も重いからだろうな」

そうとしか言いようがない。瞬時に彼女は真顔になり、肩を抱いた手を膝の上へと置いた。震えはどこにいってしまったのか。

「まぁ、後でいい感じに編集した内容を送っておくよ。手伝ってくれてありがとな。そして、ごめんなさい」

「素直ですね。帰りにゼリー買ってくれます?」

「あぁ、買う買う」

帰宅しようと立ち上がって扉へと近づくと、ドタドタと廊下を走る音が聞こえてくる。その音の目的地は、あろうことかこの教室だった。扉が勢いよく開かれ、息を切らした相沢くんが現れる。

「どうでした!?」

結果を聞きに来たらしい。生き急いでいる人間だ。

「あぁ、結果ですね?」

「はい!」

如月が一歩前に出て、跳ねた。

「問題ありません。あなたの告白は、間違いなく成功するでしょう」

みるみるうちに、彼の目が明るくなっていく。最後は満面の笑みを浮かべて、如月へと手を差し伸ばした。彼女は一瞬の躊躇いを見せたのち、自らの手を差し出して握手を交わす。

「ありがとうございます! なんてお礼を申し上げたらいいのか……」

「いえいえ。いくら好意が向いているといっても、告白をしなければ先には進めません。先に進んだところで、互いに思いやらなければ長くは持ちません。すべては、あなたたち次第です」

彼女はまさしくニッコリと笑い、鞄を手に教室を出た。

「お幸せに」

棒立ちの彼へ軽く会釈をし、彼女に続き教室を出る。去り際に見た彼の顔は、未だ笑顔だった。

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