雨の日

読了後、意識を本から現実へと戻して驚いた。酷い土砂降りである。俺が図書館で本に夢中になっている間、降ってきたらしい。下校まではまだ時間があるとはいえ、果たしてそれまでに止んでくれるのだろうか。

「雨は、お嫌いですか」

ずっと目の前にいたらしい彼女が、問いを投げてくる。本を読んでいたようで、有名なタイトルの本が机に置かれていた。彼女は、ホラー系統の本がお気に召したらしい。

「これ、止むと思うか?」

「質問に質問で返さないでくださいよ」

「そうは言ってもなぁ」

天候に好き嫌いを言ったって、どうにもならないじゃないか。そういう思いが強い。

「達観してるんですね」

「で、止むと思うか?」

「分かりません。天気予報を見ていないので」

ああ、俺もだ。

「どちらにせよ、今日は本を持って帰れないな」

「北斗さんのリュックでは、中身まで濡れてしまいますね」

「一応タオルは入れているんだが、教科書は兎も角、本は危険な目に合わせられない」

デザインで決めてしまったのが良くなかった。1度、自らが所有している本を濡らしてしまっている。2度同じ過ちを犯すわけにはいかない。今日のところは、本以外の娯楽で時間を潰そう。

「あの」

「どうした」

「傘、持ってますか」

「持ってる」

「2本、持ってませんか」

雨の音でかき消されてしまいそうなほど、小さな声。大変聞きづらかったが、彼女は確かにそう言った。

「持ってる、折りたたみでいいか?」

「助かります。お礼は」

「いらない」

この前のパンと違って、傘は1回の使用で無くなったりしない。それに、貸せるからこそ貸しているわけだから、迷惑でもない。お礼を要求するようなことではないのだ。

「そういうわけには」

「じゃあ、俺がオススメする本を読んでほしい」

「どれですか?」

立ち上がり、お目当ての本を拝借。

「これだ」

表紙が彼女へ見えるように、机の上に立たせて持つ。

「ジャンルはミステリー。シリーズもので、今のところ7巻まで出ている。この厚さから『読めるのだろうか?』と不安になると思うが、安心してほしい。主人公による独特の語り口調と個性の強いキャラクターによる話は、読み始めたらきりがなく、気付いたら1冊読み終わっている。まずは1巻だけでも、読んでみてほしい」

他にも言いたいことはあるのだが、あまりヒートアップしては騒音になってしまう。詳しくはまた今度話せばいいと思い、ひとまず本を彼女の方へと差し出す。

「すごいですね」

その目からして、非常に感心しているようだった。しかし、視線は本ではなく俺に向けられている。

「なにがすごいんだ?」

「北斗さんの目が生き生きしてます」

「まるで、いつもは死んでるみたいな言い方だな」

「いつもは死んでるじゃないですか」

「……本当に?」

「本当です」

「そうか……」

信じたくはないが、彼女が言うのならそうなんだろう。いつも彼女のことを無感情な顔だと評価していたが、自らは死んだ目をしていただなんて。やる気のないヒロインを、拒否出来る立場ではなかった。

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