ツンデレではない

「なんで俺が原稿で死んでる間に、お前は学校一の美人兼奇人の如月那緒と親しげになってるの?」

久しぶりに俺の教室に現れた波多野幹典は、そう言いながら前の席から椅子を拝借して弁当を開いた。親しげという言葉を疑問に思ったが、側から見ていると親しげなのだろう。まあ、どう思われているかはどうだっていい。同じく弁当を開いて、昼休みへと入る。

「また新刊落としたのかよ?」

「またってなんだ、俺は新刊落としたことないぞ。割増はガンガン使うけど」

誇って言えるようなことじゃないだろ。金平ごぼうを箸でつつきながら、ため息が溢れてしまう。

「そんなんだから、あれだけ必死に稼いだバイト代が飛んで行くんだろ?」

「貴様、イベント終わりの焼肉の旨さを知らんのか?」

「それは知らないけど、割増しなきゃ最低でももう1回は食えたわけだろ」

俺の言葉で、彼は悲しそうな顔を浮かべて箸を弁当の端へと置いた。

「それは分かってるんだ。分かってるんだけど、楽しいからやめられない」

「うん。お前が楽しければ、それでいいよ」

「だよな」

同意とともに、彼は箸を手にとって食事を続ける。毎度恒例の会話だ。そろそろ辞めた方がいいかもしれないと思いながらも、惰性で続けてしまっている。しかし、今回の彼は食事を続けなかった。代わりに思考するような素振りを見せ、その後閃いたように口を開く。

「お前のそういうツンデレなところが、那緒さんに刺さったの?」

言われた内容に、箸を落としてしまいそうになった。間一髪で、それを回避する。危ない、怖い。

「那緒さんって、思考が読めるらしいじゃん。それが確かなら、お前が口ではあれこれ言ってても頭の中ではデレてるって言うのが丸わかりじゃんか。超かわいい存在に思えるんじゃない?」

頭に強烈な痛みが走る。食欲がなくなってきた。先ほどの彼と同じように、箸を弁当の端へと置く。超かわいい存在ってなんだよ。

「意味が分からない」

「俺もお前の思考が読めればなぁ。今なに考えてんの? 『原稿お疲れ様』?」

俺の様子が分かっているのかいないのか、彼は呑気にそんなことを言う。いや、思ってないことはないが、超かわいい存在ってなんだよ!

「適当なことを言うな。お前の家にある在庫を学校中にばら撒くぞ」

「分かったって。ごめんね、適当なこと言って」

素直に謝られると、彼はほとんど悪くないにも関わらずキレてしまった自分が恥ずかしい。

「……いや、俺こそ悪い。ムキになるのは、図星の証だよな」

「俺は北斗のそういう自省好きだよ」

「そうか?」

「うん、良いことだと思う」

「俺はお前の『人生楽しんだモン勝ちだぜ!』みたいな生き方を尊敬してる。イベント頑張れよ」

「あぁ、応援ありがとう。頑張ってくる」

あまりにも青春じみた返答に、思わず吹き出して笑ってしまう。それは彼も一緒だったようで、2人して教室の隅でささやかに笑いあった。

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