私にできること。

あれからずいぶん歩いた。

歩いても歩いても景色は変わらない。

道には人が倒れ、明かりはなく、草木もない。コンクリートに囲まれた道が続く。

さっきまで明るかった空もだんだん暗くなってきて、寒さもいっそう増してくる。

「今どこに向かってるの?」

「ここから少し離れた所にもう一つの街があるんだ。カナム街って言ってお金持ちがたくさん暮らしてるだよ。」

お金持ちがたくさん暮らす…まるでこことは真逆だ。そんな場所が歩いていける距離にあるのか。

「そこで何か買うの?」

「お金があるように見えるか?」

「はい。すみません」

イヴァンに睨まれて私はサンの後ろに隠れる。いや、全然隠れられてないんだけどね。なんでこんな怖いんだよー!本当に子供?ちょっとくらい可愛げがあればいいのに、

「ははっ、ちょっと食べ物を分けてもらうんです。僕たち足だけは速いから」

…ああ、なるほど。

つまりそういう事ね。22歳の大人として、それはいけないことだと教えてあげるべきなんだろうけどそういう訳にもいかない。

この子達はそうするでしか生きていけない立場にあることを知ってる。

「あ、見えてきましたよ」

サンがそう言って前を指差すと、大きな門と壁が見えた。その奥には門を超える高い建物がポツポツと見える。

「すごい広いんだね…あの壁どこまで続いてるの」

「街全体を囲ってるからね。見えないとこまでずっと続いてるよ」

すごい…そんな壁を作るお金があるんなら少しくらい分けてくれたらいいのに…なんて思うけどそんな簡単な話じゃないんだろうなあ

「え、で、ここからどうやってあそこまで行くの?」

「え、ここを降りるんだよ」

「え?」

ここと言われても、この先崖なんですが…

え、ここを降りるの?どうやって?

まさかこの世界の人は空を飛べる能力でもあるの?

「慣れたら普通に降りられるよ」

まさかの自力か…22歳のおばさんにそれはきつすぎる。イヴァンとサンは先にスルスルと降りていく。

「すごい身体能力だね」

「お兄ちゃん2人はなんでもできるんだよ。喧嘩も強いし」

なんて言ってる間に2人は下についてしまった。

「はやく降りてこいよ。置いてくぞ」

「こうなったら行くしかないか…

落ちたら受け止めてね!」


「花音さんは面白いなあ」

「…」


行くしかないって分かってはいても怖いものは怖い。足を踏み外したら終わりだ。ゆっくり、ゆっくり私は足を踏み出す。

「エ、エル…あとどれくらい?」

「あと少しだよ」

あと少し…よ、よし!地面見えた!

と安心したのもつかの間


「っうわあああ!」

「危ない!」

私は木の根っこに足を引っ掛けてバランスを崩してしまい、2人の声と同時にそのまま落ちてしまった。

イヴァンとサンがその下敷きになる。

や、やばい!さすがに大人の体重に押し潰されたら2人ともぺっちゃんこだよ!

「ご、ごめん!2人とも生きてる!?」

慌てて体を起こして2人の生存確認をする。すると可愛い笑い声が聞こえてきた。

「ははっ絶対落ちるだろうな〜って思ってました」

見たところ2人はほぼ無傷。よかった…相変わらずイヴァンの無言が怖いけどこればっかりは私が悪い。

「お姉ちゃんこそ怪我してない?!」

エルが上から一瞬で降りてきて私の顔をのぞく。いや、兄弟みんな運動神経抜群ですか。

「私は大丈夫。高さも低かったし」

「受け止められなくてすみません」

「いやいや!あれは冗談だよ。ほんとにごめんね」

ほんとに2人にケガがなくてよかった…。

崖を降りるとそこは所々に緑があり、上とは景色が全く違う。

「あとはこの一本道をいくだけだ。」

「花音さん。あと少しなので頑張ってください。」

「疲れたら遠慮しないで言ってね!」

「うん!ありがとう!」

小さな3人の背中が私の先を歩いて行く。私もスカートの砂を払って後に続いた。

はあ、私ほんとに足手まといだ…いきなり現れた挙句ほぼ無理やり一緒についてきて、あんなドジしちゃうし、

なのに何も言わず優しくしてくれて、なんていい子達なんだ。

何か私にできることがあればいいのに


「どっかにお金落ちてないかな〜」

エルが地面を見渡しながらつぶやく。

お金…確かにお金があれば、堂々と街で食料を買えるよね。

私にお金を出す能力でもあればいいけど、そんなのあるわけないし……


………あ!


「ねえ、この世界って歌とかある!?」

「歌?あるにはあるよ。みんなあんまり歌わないけど」

すっかり忘れてた。私の唯一の特技。

「上手くいくか分からないけど、街に着いたら試したい事があるんだ」

「勝手にすれば」

うう、相変わらず冷たい…

「でもあんまり離れるなよ。街は危ねえから」

「え?」

イヴァンが優しい言葉をかけてくれるなんて、

「イヴァンはツンデレなんです。」

「おい!サン!」

後ろから見ても分かるくらい耳が赤くなっているイヴァン。

イヴァンがツンデレ…なんだ、可愛いとこあるじゃん!なんか少し安心したよ。


こうなったら余計にやる気でてきた!

この世界で通用するか分からないけど、日本にいた頃私はこれを武器にお金を稼いでたんだ。この世界ではあんまり歌を歌う習慣はないみたいだけど、まあ、どうにかなるでしょ!

でも路上ライブなんて何年ぶりだろ…

少し不安だけど、少しでもお金を稼げればこの子達に恩返しできるし。

「日本のトップ歌手としての実力を見せてやる。」

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異世界で3人の弟に溺愛されています。 @Re-no

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