2-6 ”喉がはじけ飛ぶような超新星爆発”
「そうだな。龍馬ちんも一応覇王なわけだし、教えておいてもいいか」
「は、はあ」
「まずは純恋ちんだ。まあこれは龍馬ちんが知っての通りだな」
「男嫌いとかわいいもの好きってことですか?」
「ああそうだ。それも極度だ。男嫌いに関しては日本一だろ。かわいいもの好きに関しては、オレも知った時の純恋ちんのギャップには驚いたぜ。あの鋼鉄の表情からクマのぬいぐるみ見ただけで豹変すんだから。まあまさか人間もその対象に含まれてたなんてな……」
「……ですね。そう言えばなんで王華院さんってあそこまで男嫌いなんでしょう?」
「それはオレも知らねーな。生理的に受け付けねー、ってやつじゃねーのか?」
そんな殺生な! あれほど嫌われているんだから何か理由があってもおかしくはないと思うけど……。
僕は丸く収まる黒髪ストレートを見た。しかし未だに念仏は止まらない。そして空宮さんが「お菓子いる?」だなんて付きまとっている。……もう僕は何も思わない。
「次はそーだなー……」
僕が苦笑いをしていると、師匠がターゲットを探し出すためキョロキョロ辺りを見回す。
やがてそれを決める。――師匠の視線上には空宮さんが入れてくれた紅茶があった。
「ちょっと、それ飲んでみ?」
「どうしたんです師匠? 自分が飲めないからって僕を実験しているんですか? 生憎僕は紅茶は飲めますよ?」
僕が師匠に勝てるわずかな一つだ。きっと紅茶はお子ちゃまの師匠には合わないんだろう。
カップを持ってそれを口に付ける。そしていざ飲もうとしたその時、
「死ぬなよ」
だなんて声が聞こえてきた。なんですか? 師匠が勝てないからって脅しですか?
「まあまあ師匠、見ててくださいよ」
僕は師匠の脅しを流して、紅茶を一気に喉に注ぎ込んだ。
結果、飲んだことのない新種の味だった。
喉がはじけ飛ぶような超新星爆発。そこから広がる大宇宙のコスミックエナジーを感じることができた。無限の星々が僕の味蕾に隕石のように衝突する。そして味蕾に生まれた大自然が僕の口内全体に寄生していった。
――つまりもっとわかりやすく言うと、クソまずかった。飲んだことはないけれど、多分泥水よりもまずい。
「どうだ、感想は?」
「すいません。喉で超新星爆発起きたんですけど戦争の兵器か何かですかこれは」
僕は空宮さんに気づかれないように小声で師匠に言った。
「確かに兵器と言えば兵器かもしれない……」
「平気だと言ってください!」
「おおうまいな」
「ありがとうございます、じゃなくて! 説明してくださいよ、なんで空宮さは僕のカップに毒盛ったりしたんですか?」
僕と師匠のパーソナルな小声の会話のキャッチボールが続く。
「いんや、誰も毒は盛ってないぞ? 綾芽ちんの力だ」
「説明不足過ぎてわからないんですけど」
「つまり――料理とかそういう系がだめってこったな」
「紅茶を生成する過程のどこで間違えるんですか⁉」
「わからない。だから怖いんだろ。この前もクッキー差し出されて食べたら謎の洗剤泡みたいなのが噴き出してきてよ、窒息して東皇四天が一天になっちまうとこだった」
師匠がシャレにならない面白い冗談を言う。
どうやったらそんな軍用兵器が簡単に作れてしまうんだろう。空宮さんは東皇四天のこの三人に何か恨みでもあるんじゃなかろうか。
「師匠がお子ちゃまだとか思っててすいませんでした」
「龍馬ちん、そんなこと思ってたのかよ」
「あっ、ごめんなさい……。ってあれ、白峰先輩は普通に飲めてますよ?」
「ああそれはだな……」
「それはね、耐性が付いたからよ」
師匠が言いかけたその時、さらにその後ろから温和な声が聞こえてきた。
ソファーに座って校内新聞を眺める白峰先輩だった。先輩は新聞をとじてローテーブルに置くと、僕の左前の『王華院さんの席』に座った。
ちなみに今日の校内新聞のタイトルは『生物部のニワ君、飼育小屋から脱走』だった。ニワトリのニワ君のことは心配だけど、一面を飾ったのが僕じゃなくて本当に良かった。
「まさか今までの全部聞こえてたのか、鈴ちん?」
「ええ、全てね。私耳がいいから」
「……で耐性って何ですか?」
「そうでしたね。綾芽さんの紅茶は確かにアレです。でも飲み続けていると次第に慣れてくるのですよ。綾芽さんが紅茶を入れ始めて二週間ほどですが、最近おいしく飲めるようになりました」
アレ、と白峰先輩は隠すけれど、もうそれはまずいと言っているようなものでしょう。
あのコスミックエナジーを味わえるって……、僕の味蕾が一億倍になったってそれは不可能だと思う。
「それは白峰先輩の舌が壊れてしまっただけでは?」
「そうかもしれませんね。……あと、綾芽さんが新しい紅茶を出してきた時に倒れないよう、お薬も持ってきていますよ」
白峰先輩がポケットから薬を出して見せる。物凄く用意周到だなあ。
「鈴ちんは慣れたけど、オレは全然だな。どうしても拒否反応おこしちまう」
「師匠、多分それが正解だと思います」
「うん、オレもそう思う」
結局空宮さんの変わっているところは『天然』と『食料兵器』ということか……。
「じゃあ次は白峰先輩の変わっているところを……」
「それを本人を目の前にしてオレが言うと思うか?」
「ですよねー」
「一堂君。それは乙女のヒミツです」
こんなに女子が周りにいるのに、そんな甘いセリフをもらったのは何日だろうと思わせるような言葉が脳を刺激する。思わず口に指を添えてウィンクする仕草にドキッとしてしまった。
「じゃ、じゃあ最後の師匠」
「あ、そうだったな。それじゃ龍馬ちん、腕相撲しようぜ?」
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