蛙蛙戯画

りょうま

ぷろろぉぐ


「ガ、ガマさんが倒れました!」


"新春・井の中会議"で

今年一の爆弾を投げてきたのは

後輩蛙の佐分利だった



「そんなこと

あるはずなかろう!」


「おいおい、ガマさんって

西の水路のガマさんかい?!」


「やっと春がきたところなのに!なんてこった!」



蛙たち一同はてんやわんやになり

幕末期の 民衆運動"ええじゃないか" を彷彿させるような

わちゃわちゃした動きで辺りを緑に染めた


井戸の底では二百年以来の

"ええじゃないか"の再ブームが到来し

蛙たちは、いつも以上にピョコピョコと跳びはね


「ええじゃないか!ええじゃないか!」と


浅く残った井戸水のしぶきを

ぴちゃぴちゃと撒き散らしては


ガマさんが倒れた悲しみより

"ええじゃないか"の舞をできたことに

喜び感じているようだった


蛙界では何か驚くことが起きると

幸不幸問わずとりあえず、ええじゃないかと叫び

ぴょんぴょん跳ねる習慣がある



以前も、東の長老蛙の告別式で

ある一匹のガマ蛙が "ええじゃないか発作"を起こした際

親戚含め周りの蛙たちも我慢ができず舞ってしまい

連鎖的に式場全体が”ええじゃないか”で溢れかえったことがあったそうな



無論、何も"ええじゃないか"の状況ではない



さて、このやうに我々人間界の

知らぬところでは

蛙界という世界が存在しているようだ


井の中の蛙とは今日も良く言われたもので

文字通り生涯の全てを

井戸の中で完結している者たちもいる


というのも、井戸の外に一歩でも出ようものなら

我々でいう生身で宇宙空間に参るようなものなので

その危険さたるや、己の死期を早めるだけで利益など微塵もない

決して出てはならないと

おたまじゃくし時代から口を酸っぱくして言われているだとかどうとか



そんなちっぽけな世界で生きている

蛙たちのお話である

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蛙蛙戯画 りょうま @ryoma3939

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