独行の道

緊迫の一時が過ぎた。


そのかん、両者はただ睨み合うのみで、一向に口を動かそうとはしなかった。


互いに最善の言葉が見当たらないのか。 それとも、この再会ははなから文言を必要としないものか。


「………………」


事を見守る穂葉の心中は、限りなく重い。


まるで、双方の間を億の言葉が行き交った後のような屈託が、ずっしりと感じられる始末だった。


ともかく、この難局をしのごうと、辺りに視線を巡らせる。


何か、あつらえ向きな物種など落ちてはいないものか。


「あ……」


そこで、彼女らを発見した。


ところは、大社の前部に設けられた大鳥居の足元。


なかば息をひそめるようにして、こちらの様子をうかがっている。


その態度には、何やら一端いっぱしの恥が見え隠れしており、満身からの申し訳なさと言うか、る瀬のないものがひしひしと感じられた。


「あれ! あれ見てよ!!」


気を回した穂葉は、大声を張って両親の注意を引いた。


ところが、これはどうやら逆運を招くものだったらしい。


機を得たとばかりに、父が躍動して母のもとへ攻め掛かったのである。


たちまち鋼をすような騒音が響き、二名の狭間はざま光子こうしが咲いた。


アスファルトを打った金棒は、しばらくの間全身に震えをきたした後、再びまで走り出そうとはせず、甘んじて沈黙した。


「……割れたな? 爪」


「えぇ。 少しだけ」


「謝ったほうがいいかね?」


「いえ。 いいえ」


手首に伝うささやかな血筋を、舌先でペロリと舐め取った宇彌うみは、首を揺すっておだやかに打ち消した。


その様を表情なく見澄ました史は、やがて借り物の戎具じゅうぐを小さな尺寸に変じ、これを娘のもとへ放って寄越よこした。


そうしてきびすを返しつつ、「やっぱり──」と、あざけりともおどけ口とも付かない言い回しで述べる。


「やっぱり、お前らに地獄は似合わねえな?」


そんな風に言い残した彼の魂胆とは、果たして如何いかなるものか。


一応の危機を脱し、ともかく心身を鎮めることに注力する穂葉にとって、それはまったく知るよしもないことだった。

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神祇 高石童話本舗 @honpo

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