第25話鬼娘の御用聞き

冷ややかな色合いをした電灯の下では、古ぼけたテレビがきっぱなしになっており、内容のよく判らない番組をガヤガヤと流していた。


人間こっちの世界で言うところのトーク番組か。


これが一旦いったんCMへ移行した頃合いに、興醒きょうざめた目線を画面に据えたまま、彼女がポツリと言った。


「いま、誰か訪ねてきたら面倒だよね?」


「ん……」


時刻は夜半を過ぎ、今日と明日の境目が、とっくに希薄きはくなものに成り果てている。


いつでもオープンな施設とは違い、こういった宿屋は、防犯意識の関係上、門限をきちんと設定し、夜の施錠せじょうおこたらない。


カウンターには、そこに納まるべき亭主の姿がいまだなく、無人のままである。


すこしはばかりにでも引っ込んだのか、先述の通りコーヒーを用意してくれている最中なのか、それともすでに就寝したか。


こぢんまりとしたロビーには、私たちが居残るのみだった。


「誰か来たら、ほのちゃんが出てね?」


「あ? なんでよ?」


「人見知りなのよ、こう見えて」


「私だって得意じゃないよ」


これはひとえに、世の皮肉な習いと表すべきか、こういう時に限って、思いとは裏腹の面倒事がく持ち上がる。


近場の玄関ドアに対し、“誰も来るな”と念じ続けたものの、こうそうさなかった。


「邪魔するよ! 誰か居ないかね?」


「………………」


まるで当たり散らすようなノックに続き、騒がしい声が聞こえた。


声質もの女声じょせいのようだけど、かぐわしさはまるで無い。


「えー……?」


どうしようかと思いあまったげ句、対座に意見を求めるものの、彼女はそれとなく視線をらしてみせた。


仕様がないので、重い腰を持ち上げ、応対に出る。


「はい? どちら様───」


「悪いね? 御用の筋だけど、怪しい二人組を───」


「え?」


「あ?」


ドアを開けると、厳しい表情の鬼娘が立っていた。


とくに鬼刑事や鬼捜査官というのでは無く、まがうことなき鬼の風体ふうていをした女の子だった。


「この……ッ!? このヤロッ!!」


「うわわっ!?」


互いに目を点にして、一時いっときほど見つめ合った私たちであるが、先方せんぽうの顔が見る見る烈火のように変わるのを見て、私は慌てて身を引っ込めた。


これが幸いして、彼女が有無を言わせず繰り出した刃物から、からくも逃れることができた。

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