第24話おたずね者

「そんで、ぶった斬ってやったん?」


「や、斬ってない」


「じゃあ、ぶっ刺した?」


「んーん。 何もしてない」


私が有りていに言うと、彼女はいよいよ増して不思議そうな表情をした。


続けて小首を仕切りにひねった後、「これ武器だよね?」と、ぞんざいに言ってのける。


「切ったり突いたりする以外に、どんな使い方があるっていうのさ?」


「知らない。 魔除けみたいな感じじゃないの?」


同じく、なかば投げやりに応じた私は、すごすごと湖底へ引き下がってゆく大ナマズの姿を、ぼんやりと思い返していた。


原始的には、切ったり突いたりをもっぱらとする戎具じゅうぐでこそあるが、別の用途に駆り出される場合がしばしばある。


例えば、持ち主の権勢を大衆に広々と示してみたり、まじないとして病人をなぐさめてみたり。


極端な話では、皆々に神聖視された刀霊が、文字通り神に昇格したケースもある。


「それにしても、子どもの手っていうのが」


「ん? あぁ」


「あまりにも奇っ怪だね?」


「まぁね?」


呪物のろいものなんじゃないの? これ、じつは」


「かもね?」


「なにか変わったこと起きてない? 身の回りで」


「……友達なくした。 最近できたばっかりの」


意気を消沈して述べたところ、彼女は“あぁ……”という表情を浮かべたきりで、とくに慰めの言葉は寄越よこさなかった。


他者に優しく接するタイミングというものをわきまえているのか、少なくとも、これはこれで有り難い。


「ホント、どうしよっかな? これから」


「地の果てまで逃げようよ。 追っ手を蹴散らしながら」


「物騒すぎるって。 別に喧嘩しに来たわけじゃないのに」


「でも、結果的にそうなったんだから仕方ないじゃない?」


「んー……」


「大丈夫だって。 私が加勢すれば百人力なのよ!」


あながち間違ってはいない。


くのごとく豪語する彼女は、私たちに追い着いてくる警察車両を、片っぱしからぶん投げてみせた。


つい先刻のことだ。


「あれ絶対やり過ぎ。 余計に立場悪くしてどうするのさ?」


「仕様がないじゃない? 妹を守るのはわたしの務めなんだし?」


「“過保護”って知ってる?」


「それに、せっかくの神世なんだから派手に行かにゃ」


華やかな表情の陰日向かげひなに、どことなく傍若無人ぼうじゃくぶじんな様相を含ませて、彼女はカラカラと笑った。


いかに場末の安宿とは言え、公共施設のロビーで悪目立ちするのは問題だ。


それとなくカウンターの様子を探ると、そこに亭主の姿はすでに無かった。

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