第26話生死を問わず

床材を打った長尺刀が、くぐもった癇声かんごえを上げて、羽撃はうつように戦慄わなないた。


あわせて、持ち主を務める少女の癇癪かんしゃくもまた、いよいよ増して治まることを知らない。


「なにけてんだ!? 神妙にしろい!!」などと、唾を飛ばしてまくし立てる。


まったくの無法だ。


先方の目的が、私の身柄を確保することならよし


後に潔白を主張する意味でも、この身を差し出す余地は充分にある。


しかしながら、苛辣からつな威勢を着た刃の下に、進んでこうべを垂れるバカは居ない。


「話聞いて! まずは……っ」


「聞く耳持たん!!!」


手近の花瓶を盾にして申し出るも、彼女はまったく意に介さない。


矢のように疾駆した切先が、このささやかな便り所を、内部に納まった花茎かけいもろともに貫通し、私の頬をあさく引っ掻いた。


「…………ッ!!!」


瞬時に頭が沸騰し、眼の奥でいかずちぜた。


「伏せなさいな」


そこに、背後から声が掛かった。


当方の短気を見越したかのように、じつに落ち着き払った声だ。


ともかく、これを気付けに、灼爛しゃくらんとする頭内を冷まし、言われるがままに身をかがませる。


瞬間、放射圧もはなはだしい光子こうしたばが、私の直上を通過した。


「うが……っ!?」


首筋に鈍重なさわりを覚えたのもつか、派手な破砕音が轟き、大小のあくたが、我が身にバラバラと降りかかった。


恐る恐る見ると、うちのお姉ちゃん、もとい姉を自称する彼女の腕前から、光輝のほこぐに伸びている。


それは宿の玄関を完全に突き崩し、窮屈な小路こみちを横断して、向かいの建物に深々と突き刺さっていた。


言うに及ばず、少女の姿はない。


鉾先に飲まれたか、それとも影すら残さず蒸発したか。


敵とはいえ、先方の哀れな境遇をはかろうとつとめたところ、姉が厳しい口調で吼えた。


「逃げるよ! あんなのとりたくない!」


「え?」


果たして、言葉の意味はすぐに知れた。


「上等だボケぇ!!!」


「うわわ!?」


単に頑丈という表現では収まらない。


光輝の鉾先を手ずから押し退けた少女が、半壊した建物の二階部分より、当方へ飛びかかってきたのである。

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