第9話壊し屋

これに少しはひるむかと思ったが、どうやら当方の気炎のほうが、逆に恐れをなしたらしい。


女の足下を大きく避けた炎熱が、蜘蛛の子を散らすように、部屋の隅々へ逃れていった。


しかしながら、こちらの魂胆はきっちりと伝わった様子だ。


「ほう? る気かえ?」と、口唇こうしんに不敵なものを忍ばせて、女が笑った。


見てれに似合わず好戦的な様子だが、話が早くて助かる。


そもそもの話、向こうもその気を第一にして、この地獄くにを訪れたらしい。


どういうつもりかは知らない。


国を盗る気か、はたまた俺をる気か。


まったく笑い話にもならん。


「にちゃにちゃ笑いやがって。 そのつらいつまでつか楽しみだ」


「あら楽し。 なんとも悪役に似合いの台詞せりふで。 安堵あんど致しました」


佩刀はいとうをスルリと払った女は、気が気でない様子の宇彌をその場に残し、横合いへ静静しずしずと移動した。


言わずもがな。 この宇彌こそが、当の女の弱点であることは明白だ。


“ならば”と牙を剥き、右の掌中しょうちゅうに溜めた焔弾えんだんを、全力投球の姿勢で、その弱点へ差し向けようと働く。


「あっ!」と叫んだ女は、途端に目を三角にして怒り狂った。


続けて容貌に似合わぬ罵詈ばりを吐きながら、大慌てで宇彌の元へ取って返す。


この間隙かんげきに、事務机を飛び越した俺は、大いに死にたいを曝す小兵こひょうの土手っ腹を目掛けて、渾身こんしんの急襲を仕掛けてやった。


するどくうめいた敵の体躯が、勢いよく後方へ飛び翔けた。


間を置かず、一室の出入り口に用立てられた木製ドアを突き破る。


その上さらに、当方が放ったダメ押しの火球が加わり、ドアのみならず私室の下手しもてが、滅茶苦茶に崩壊した


尚も火球の推力はむことを知らず、板壁を打ち破り、漆喰しっくいかして、屋敷内をわが物顔で縦断した。

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