第31話 指名手配犯
猫の紳士は別室で申請書類を作る必要があると言われ、促されるまま審査官の後をついて行った。
すると急に審査官は、通路でなにやら立ち止まった。
あまりに急だったので、猫の紳士は思わず審査官の背中にぶつかりそうになったがなんとかとどまった。
審査官は腕を組んで思案顔になりながら、ある一点を凝視していた。
猫の紳士は、客を案内中に何してるんだと不審に思い、その審査官の視線の先に目をやった。
その通路の壁には、大きめの掲示板があり、審査官はその掲示板の『緊急手配』と書かれた貼り紙の内容を確認してるようだった。
「うん、やっぱり。間違いないようね」
何かを確信した審査官は、くるりと猫の紳士の方に振り返り、猫の紳士の右腕をぐっと掴んだ。
「……!?」
次の瞬間、猫の紳士は審査官の体を軸に、ふわりと宙を舞い、うつ伏せの状態で体をその場に叩きつけられた。
「ッ……!」
猫の紳士はあまりの突然のことで、何が起こったのかまったく理解できなかった。
ただ背中を強く打ちつけたせいで、息が出来ず苦しんでうずくまっていた。
審査官はそのまま、ドンと猫の紳士の背中にのしかかり、背後から両手を抑えつけ、あっという間に何かを取り付けた。
「あ、こら……! 何の真似だ!」
後ろに回された両手首には手錠が付いており、審査官のその見事な手さばきによって、猫の紳士の両手は完全に自由を失っていた。
「なんだこれは! 今すぐ外すのだっ!!」
一瞬のことで驚いた猫の紳士は、両手に取り付けられたものが手錠だと確認すると、その場にごろごろと転げまわり、
「わたしが何をしたというのだ!」
その声を聞いて、何事かと近くを通りがかった3人の甲冑の猫がこっちに駆けつけてきた。
「いきなりなんなんだ貴様! 早く外したまえ!」
「ああ、うるさくてたまらないわ。あなた達、そいつを黙らせなさい」
うんざりした表情で審査官は耳を塞ぎ、甲冑の猫たちに猫の紳士を任せた。
「はい、承知いたしました」
「ムグッ!! ムググッ……!」
手錠で拘束された猫の紳士は、足をばたばたとさせて抵抗を見せたが、その足もすぐに甲冑の猫たちに拘束され、猿ぐつわを
猫の紳士は、審査官を睨みつけた。
「まさにビンゴね。まさか本当に死神の猫が言う通り『指名手配犯』の方からやって来るとわね」
「ンン!? ……ンーッ!! ンンー!!」
猫の紳士は審査官に、必死に何かを訴えかけようとしていたが伝わるはずもなかった。
「いかが致しましょうか」
「とりあえず、拘禁留置場に入れておきなさい」
「了解しました」
「ンンーッ! ン――ッ!」
かつかつとヒールを鳴らしながら、審査官は奥の部屋に戻っていった。
甲冑の猫たちはその審査官の後姿を、敬礼で見送った後、猫の紳士の足を持って、ずるずると引きずるようにして運びだした。
ビーーーーーッ! ビーーーーーッ! ビーーーーーッ!
突然の警告音で顔を見合わせた甲冑の猫たちは、何が起こったのか分からず足を止めた。
「おい、不法入国者だ! 急いで4番ゲートに向かってくれ!」
通路の向こうから慌ただしくやってきた別の甲冑の猫に促されたが、審査官の命令を中断する事は許されないと、猫の紳士の護送を一人に分担することにした。
「まじか……次から次へと。ちょっと行ってくる。こいつはお前に任せるぞ。おい、お前も来い」
「ほい、りょうかいっす!自分はパイセンについて行くっす」
「了解しました。こいつは私が責任を持って拘禁留置場へ運んでおきます」
二人の甲冑の猫は、応援を要請した甲冑の猫を追い、通路を駆け抜けていった。
残った一人の甲冑の猫は、ウーウーと呻き声をあげている猫の紳士の足を掴み、拘禁留置場へ続く通路をずるずると引きづり運んでいった。
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