第30話 行き先不明の檻
「僕はどこへ連れていかれるんだ!? なぁ、おいっ! 地獄行きなのか!?」
僕は手と足を拘束されて、大きな台車のようになっているケージの中で、焦りと不安で取り乱すようにひどく動揺していた。
僕を閉じ込めたケージをガラガラと押す二人の甲冑の猫は、まるで僕の問いかけなどに耳を貸す様子はない。
「あの、本当すみません。僕、どうなるんですか……?」
「おい、そこ段差あるぞ」
「了解っす」
何を言われても答えてやるものか。と言わんばかりに甲冑の猫たちは、
長い通路を抜けて少し明るい部屋を抜けると、外に近いのか少し暖かい風を感じた。
甲冑の猫たちは何か世間話のような会話をしながら、どこかを目指していた。
「久しぶりっすね、これ使うの。前いつ使いましたっけ?」
多分後輩なのだろうその甲冑の猫は、少し埃っぽいケージの手すりを撫でながら言った。
「さぁ覚えてねぇな……。なぁ、それよりも。さっきバステト室長代理はビンゴだって言ってたけど、……あれって食堂に貼ってた指名手配のやつ?」
「ああ、多分そうっす。確か王の特命がどうとかって噂っすね」
「例のあの謎めいた特命捜査官が絡んでるのか? それやばくね?」
僕は二人に話しかけることを諦め、しばらくケージの中でその会話に聞き耳を立てていた。
「あれ? これどこに運ぶんです? 調査室? 執行室? それとも拘禁留置場っすか?」
「いや、今回は内門側にいる役人にそのまま引き渡し。既に外でお待ちだ」
どうやら二人の話からすると、僕は外に向かっているらしい。
「おっけーっす。局長へは?」
「もう報告済みだ」
「さすがパイセン。仕事早いっすね」
役人へ引き渡されたら僕はどうなるんだろう。
そういえば猫の紳士はどうなったのだろう、少し気掛かりだ。
ガラガラガラ、ガタンッ、ガラガラガラ……。
平坦に舗装されているであろう通路を抜け、時折段差を超えた時の体が軋むほどの振動を感じながら、台車は甲冑の猫によってどんどん進んだ。
さらにいくつか段差といくつかの部屋を通り抜け、ようやく少し広めの大きな旅館の玄関のような出口を出ると、そこには死者の国への門だろうものが見えた。
その門はとても大きな鳥居の形をしており、少し色褪せた風味を見せる朱色は、建築されてからの長い歴史を感じさせた。
その鳥居の門の、いかにも。という神聖さと厳かな雰囲気が、僕の緊張をさらに増長させたのだった。
「あ、お待たせしやしたー!」
「お世話様ですー」
甲冑の猫たちが声をかけたその先には、少し顔のイカついキジトラの猫が立っていた。
さきほどまでフランクな会話で気を緩めていた二人の顔は、そのキジトラの猫の顔を見て、一瞬で緊張の色を見せた。
そそくさと二人はビシッとした敬礼をしてみせたが、キジトラの猫は無言で軽く会釈を返すのみだった。
その様子を見ていた僕は、キジトラの猫は甲冑の猫よりもいくらか立場が上であることを即座に察知した。おそらくこいつが、二人の言っていた役人の猫なのだろう。
「ではこれで。おなしゃっす」
「ご苦労様ですー」
甲冑の猫たちはケージをその役人の猫に引き渡し、そそくさと関所の建物に戻っていった。
「なんかちょー怖くねぇっすか。あの役人」
「しっ! 聞こえるだろ」
関所の中から聞こえた甲冑の猫たちの声は、明らかに役人の猫にも聞こえているはずだったが、役人の猫はピクリとも表情を変えることはなかった。
さっきの甲冑の猫たちの雰囲気とは全く違い、
僕が入っているケージを、役人の猫はぐるりと一周見回したあと、無言で首をかしげ、ケージを大きなお城が見える方角へ押し始めた。
「……あの、僕はどうなるんでしょうか……」
僕はおそるおそる、その役人の猫に声を掛けてみた。
「ああ、えっと、貴方をお迎えに上がりました。王がお待ちですよ」
明らかにイカつい顔で怖そうな雰囲気のキジトラの役人の猫は、その印象からは全く予想もつかないほど、にこやかな笑顔でそう答えた。
「……へっ?」
僕はその返答に拍子抜けして、思わず間抜けな声を出してしまったのだった。
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