のぞき穴に見る夢は…

趣味、のぞきです、なんて言ったら確実に引かれると思うが、この世界はのぞきで成り立っていると言ってしまっても過言ではない。世の中の殆どの人間が他人の何かを気にして生きている。世界という巨大なのぞき穴の中に放り出された私たちは、のぞき穴に何を見出すのか?のぞき穴から見る世界は現実か、はたまた虚構か?のぞきイコール無言の干渉。のぞきイコール甘美な夢の延長線上にあるファンタジーの世界。のぞきイコール自分が異常でないと感じられる安心感を得たいが為にする行為。のぞきイコール幼少時に芽生えた好奇心の海。のぞきとは、人類の希望であり最高の娯楽なのだ。


他人の世界に踏み込みたいと思うことは、きっと健常な人間ならだれでも感じる欲求だろう。のぞきは閉じ込められた世界と類似する。閉じ込められた世界を鑑賞するのがのぞきであり、のぞきを記録する事が閉じ込められた世界の制作である。のぞきに性的興奮を見出す人間もいれば、のぞきに安心感を得る人間もいる。


しかしのぞかれた人間は何を感じるだろうか?大半の人間はショックを受けるであろう。生活の中で気を抜いていたところをのぞかれてしまう、プライベートな物事を存在を知りもしない人間に侵される、理不尽である。まったくもってショッキングである。立ち直れない人間もいるかもしれない。トラウマになって過剰に人間の目が気になりだすかもしれない。かつて私も向かいに住む人間にのぞきまくられてわくわくしたのだが、妹は怖がっていちいち過剰に反応しておった。そうだ、人間の中には、見られて興奮するという不思議な種類も存在する。私がまだうら若き、就職して間もないころ職場は街の中にあり、歩いて15分ほどの場所に月極で駐車場を借りておった。美容師のアシスタントである。朝は8時に出勤、夜は10時が受け付けのラストなのだが、10時にお客様が駆け込んできてカット・カラー・パーマのトリプルセットを頼んだりすると、帰るのは夜中過ぎである。その夜中の道のりを一人で歩いて駐車場に向かっていると、よく変わった人間に声をかけられた。大抵は、どっかでお茶でもしようぞ!とかいうさびしいおっさんが多かったのだが、結構早く終わったときに毎回声をかけてくる仕事帰りであろうか?30代くらいのスーツを着た真面目そうな人間がいた。見た目は眼鏡をかけていて、すごく知的そうなのだが、いつもこういって声をかけてくるのだ。


「あの、僕がするところをちょっと見ていてくれませんか?」


当時の私は、うら若き乙女である。ひぎゃーである。何を言っているんだ、こいつは?するところを見て欲しいだなんて、それだけで終わるはずがない、このド変態野郎が!そう考え、いつも「いえ、だめです」と言って逃げておったが、今の私ならのこのこ付いていきそうである。当時の私は結構きわどい格好で出勤しておった。それ下着だろ?とか、パンクやゴリゴリのゴス、女王様も真っ青のエナメル素材の服とか。だから彼はただ単に見てほしいだけだったんだろう、と理解できる。きっとマゾで、見られていることに性的興奮を得る、純真無垢で無害な人間だったのであろう。惜しいことをした。こういう人間は、うら若き乙女でなく、世界を知り尽くした大人の女に声を掛けるべきである。たぶんうまくいくか、警察に突き出されるであろう。


一方私の知り合いの女性には、ストーキングまがいの行為をする人間が三人ほどいた。好きな人の生活をのぞくのだ。まあ若いうちは許される行為なのだろう(たぶん)。好きな人の後をつけて行って、住んでいる所を探すという人間もいたし、お隣さんを好きになって、いつも窓からのぞいている子もいたし、みんな必死であった。一人、同級生の男子から風呂場をのぞかれ、そこから恋愛に発展した強者もいた。何があるかわからん、それが人生の面白いところである。


私はストーキングされたことは多分ないが(連れの浮気相手には追い回された)、妹がストーカーの被害にあったことがある。家まで来るのだ。来て、手紙をポストに入れていくのだ。手紙の内容はこうだ。


”あなたが死んだ彼女に似ていて好きすぎるので話がしたいです”


まったくもって意味わからん。妹からすれば、彼と死んだ彼女には全く関係ない存在だし、死んだ人間に似ているからと言って、妹は別人である。中身は違う。中身を知らないのに、好きすぎるとは何事だ?薄っぺらい人間だな、こいつ。話をしたいだと?知りもしない、死んだ彼女のまぼろしを別の人間に見るような人間と何を話すというのだ?なぜか、電話番号まで探してきて、うちには昼夜を問わずそいつから無言電話がかかってきた。話したいと言ってるのに、無言電話である。もう意味不明だ。

ある日、私が家にいたとき、ポストに手紙が投函された。どんな奴か見てやろう、と玄関ののぞき穴から見てみた。なんか冴えないおっさんであった。そのおっさんは、手紙をポストに入れた後も、家の周りをうろつき、不審者極まりない。やがて停めてあった車に乗ったかと思うと、電話のベルが鳴り響いた。おおお!おっさんが電話かけてきた!私が受話器を取って答えたら、案の定無言である。しびれを切らした私は、おっさんに話しかけてみた。


「あの、妹が怖がっているので、もうやめてくれませんか?」

「え?○○ちゃん(妹の名前)でしょ?」

「いえ、姉です」

「うそだー、○○ちゃんだよ」


そんな感じで小一時間、妹のストーカーと話し、なぜか納得させることができた。相手を逆上させずになだめ、理解してもらう、まったく骨の折れる過程だったが、私は変な達成感と、喜びに心が浮かれた。心理カウンセラーとかセラピストになったら金稼げるかもしれん、と思った。でも金が絡むと、義務になって責任も出てくるので、こういう立場がちょうどいいと思う。趣味の範囲で人生相談、大好きだ。それ以降、彼からの無言電話とストーキング行為は、ぱたりとやんだ。


現代に於いて最も身近なのぞき穴は、インターネットの普及に伴いみんなが利用することとなった、SNSであろう。フェイスブックやインスタグラム、利用している人も多いのではないだろうか?SNSの良い所は、のぞく側、のぞかれる側、どちらも満足させることができるところだ。のぞかれたい人間は自分の事をぽんぽん投稿して、不特定多数の人間に無言のストーキングをされる喜びを得る。のぞきたい人間は、気にしていた人や気になった人をストーキングし放題だ。しかも相手は追い掛け回さなくても、どんどん自分の個人情報や食べたものや、行った場所を投稿してくれる。なんと素敵なのぞき穴だ、インターネットは!


ということで、のぞきに特化したマガジンを作って、のぞきについてのエッセイや、掌編小説、写真等を投稿していきたいと思います。


どんどんのぞいていってね。

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エッセイ まみすけ @mamisuke

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