第14話 現代社会が舞台で魔法を使う女の子が出てくる古いラノベ二編。

 『メルヘン・メドヘン』というラノベのシリーズの最終巻とその番外編を読んでいた。


 友達がおらず本を読むのが好きでふとした拍子に妄想に耽る癖のあるコミュ障気味の女子高生が、ひょんなことから魔法界の名門のお嬢様と出会ったことをきっかけに本の形をしたマジックアイテムと契約することでなれる「原書使い」と呼ばれる特殊な魔法使いになる。

 それがきっかけで魔法が使えるようになり、そのため魔法界の魔法学校に通ったり、願い事の叶う魔法をかけて世界各国の魔法使い学校の精鋭が魔法バトルを繰り広げる大会に出場するためにがんばったりするのと同時進行で、主人公とお嬢様が仲を育むという内容のお話。その二人以外でも話のあちこちで女子と女子がいちゃこいている。男子は出てこない。そういう内容の魔法少女ラノベである。雑な説明ですみません。


 日ごろ魔法少女小説ばっかり書いてるしできるならこれからも書いていきたい。

 というわけで、最前線のラノベのフォーマットで魔法少女(それも昨今流行りのエグイ展開にせず普通の女子が夢やら希望やら未来のために奇跡を起こす系の王道のやつ※1)はどう書かれているのか――という勉強のために手に取ったのが読んでみたのがきっかけだったが、魔法・本と物語・女子と女子、という好きな要素しかない内容だったので大いに楽しんだったのだった。

 これなら、露天風呂だとか無駄にエロいキャラクターとかブルマとかブルマとかブルマとかあとブルマとか(※2)、その種のお色気要素は控えめにした方がよかったんじゃ……? と思わんでもなかったのだけれども、まあジャンルとかレーベルとか推定読者層の要請というものがあったりするのだろう。

 実を言うと本編より、各国の魔法学校のメンバーに焦点をあてた番外編の『メルヘン・メドヘン フェスト』の方が面白かった。というか、女子が女子に向けて「あの子ともっと仲良くなりたい」といってるコメディータッチの話ばっかり三本入ってるのでそういうのが好きな人なら買いであろう。多分本編読まなくてもそんなに困らない。困ったとしても今のところ四巻までしか出てないのでまあなんとかなる……と勝手に営業しておく。


 聞くところによると本作原作のアニメが今年の頭に近年稀にみる派手な作画崩壊をやらかしたそうで、最初からメディアミックスを意識していたと思しき本作の今後の展開が正直期待しづらい。たのまれもしないのについ宣伝めいたことをしてしまうのは、楽しませてもらった故の未練が働くせいだろう。

 明らかにソシャゲ展開からの二次創作の盛り上がりを意識した作りになってるのでより残念ですね……ってすでにプロジェクトが終わった前提で話をして申し訳ない。



 前置きが長くなってしまった。

 ここで語りたかったことは、本作を読んでいた時になんとなく頭に思い浮かんでいた古いラノベについてである。どれくらい古いかというと、まだライトノベルって言葉がなかったころに出版されたラノベである。そういう本について語るのはおおよその世代がばれるので控えたいという気持ちがあるのだけども、まあ今まで別に隠してないので開き直ることにする(※3)


 どっちも「現代社会で魔法を使う女の子が活躍するラノベ」、「私は好きだったし、自分の書くものに大なり小なり影響を受けているけどシャレにならんほどマイナーで語る人をあんまり見たことが無い」という作品である。そういうのだからこそ語りたいのである。つうかこのエッセイはそういう本について一方的にぶつぶつ語りたいがために始めたものですよ!


 というわけで以下、いやがらせのように現代社会で魔法を使う女の子という点とおそろしくマイナーであるという共通点しかないラノベについてのお話が続くよ!

 万が一「へー、ちょっと読んでみたいかも……」ってなっても既に絶版になって久しくkindle化もされてないよ! Amazonのマケプレとか地元の古本屋を利用しなきゃ読めないよ。そういう本について語られても迷惑じゃないという方はこのままお進みください。

 ――あ、ちなみにどちらも「魔法を使う女の子ではあるが、いわゆる魔法少女ではないし魔法少女モノでもない」小説です。魔法少女ラノベを読んで連想したくせになんですが。



◆『バナナワニプリンセス』人魚蛟司 (著)


 一般人は知る由もないけれど、遊園地やテーマパークには実は霊的な災いから施設や利用者を護るための霊能者や魔法使いがいるんです。彼や彼女らは守姫と呼ばれて、利用者が持ち込むストレスなどの悪い気を浄化するために日夜戦っているんです――という世界観で語られる、カクヨムジャンルでいうなら現代ファンタジーにあたる小説。

 静岡県某所にある某バナナワニ園に謎の怪物に襲われる金髪美少女が逃げ込んできて、園長の息子で飼育係をやってる主人公の少年とほぼ兄妹のように育った南の島出身でワニの神様を祀りワニの魔法を使う褐色肌の少女は成り行きでこの美少女を助けることになる。

 美少女は失われた神様と魔法を継承する一族であり、主人公を自分たちの一族の伝える神話に登場する救世主だと言い張る。そして、なにやらとてつもない悪の化身が復活しようとしているらしい千葉県某所のあそこっぽい遊園地へ行こうと訴える。そんなこんなで、主人公、金髪美少女、それと褐色肌でワニの魔法をあつかう女子はあのテーマパークっぽいところへ旅立つことになったが、悪の化身に操られた関東一帯のテーマパークを護る魔法使いたちが立ちはだかるのだった――。

 とまあそんなこんなでレベルをあげて某ネズミーランドっぽい遊園地にたどり着いた主人公たちは驚愕の真実を知るのだった――と、まあそんな内容です。


 私の説明が雑なので全く伝わらないことと思われるが、文化人類学ベースの魔法ネタが邪魔にならない程度に仕込まれていることやお手本のようにストーリーがきちんと纏まっている点が好感度の高い理由である(こういうストーリーだから、クライマックスも当然ネズミ王国を舞台にした怪獣大戦争もちゃんとやってるよ)。

 が、何をおいても「遊園地やテーマパークにそれを守護するための霊能者や魔法使いが一人いる」という設定が素晴らしいの一言につきる。ていうか新しすぎる。発想としては現在の擬人化ソシャゲの先行例だよな、と。

 このアイディアを買い取ってリファインしてソシャゲ化なんかに転用して、魔法少女化した遊園地を集めまくる「遊園地これくしょん」みたいなものを作ってくれんものかと……、アホみたいな夢をみてしまう程度には惜しすぎるアイディアだと思う(ちなみにその際には脱衣要素はいらない)。


 本作の作者さんは現在別名義でジュブナイルポルノや官能小説で活動されているらしい(※4)ので続編とか復刻の可能性はかぎりなくゼロに近く、その分勿体なさを勝手に悔やんでしまうのだった。


 (アイディアばっかり称えてしまったのが何ですので、ストーリーも手堅くきっちり一冊にまとまっていて面白かったですよ……ともう一回フォローを入れさせてもらいます)



◆『古墳バスター夏実シリーズ』七尾あきら(著)


 便利で手軽な魔法が発展しドラゴンやエルフが実在したりする現代社会が舞台の、明るくて元気でやたら惚れっぽいのと後先考えずに行動しがちなところが珠にキズだけど、次元に干渉できる非常にレアな魔法の適性を持っている魔法科のある高校の劣等生女子が大騒動をまき起こす系のコメディーラノベ。全三巻。

 一巻が理想的にドタバタしたスラップスティックなコメディ、二巻が行きずりのイケメンに恋をしたことから始まる冒険もの、三巻がパラレルワールドで人型兵器として改造されていた自分と遭遇したりするから始まるシリアス気味な完結編。


 高校の魔法科では式神を封じ込めたチップのようなものを作ったり、魔力の塊や精霊などを相手にする武術があったり、妖精や魔法がらみの災害が起こったりする、魔法が当たり前にある現代社会の描き方に無理が無かったこと(なにかしらSF的な裏付けのありそうな魔法の描き方が全体的に非常にスマートだった※5)が印象的で、今でも魔法が当たり前にある現代社会ものを書くときはお手本として頭においている所がある。

 それに加えて、すごく文章が上手な方だったような。平易でするする読めるけれど読者におもねりすぎず、フォントを大きくしたりするようなその当時らしい遊びはあるものの砕けすぎはせず、頭がよく高貴なキャラクターはちゃんとそういう口調でしゃべるし、シリアスな場面ではシリアスに語るというメリハリの利いた文章が魅力的だった。文体の面でもお手本として意識していたりもする。


 あとまあ、個人的に好きだったのが主人公の夏実さんの親友というポジションででてくるエルフで優等生のお嬢様が親友にむける感情がほどほどに重たいという面だった――。


 設定もストーリーもよくできている、文章もお上手、しかし特に話題になったりした様子は見かけない。

 それが寂しいのでこの作品を思い出すとついつい悲しくなってしまい勢いでどうしてメジャーになれなかったのかと一人反省会めいたものをしてしまうのだけれど、その都度導き出される回答が「このタイトルがひょっとしたらよくないんでは……?」だった。


 古墳バスターって何する職業よ……? ってなりますやんかいさ、どうしたって。

 出来る範囲で説明を試みてみるが、古代人が別次元の空間に貴人の遺体を副葬品とともに葬った次元古墳から瘴気や魔物が噴き出てきては現実世界に迷惑をかけることがあるので、その問題に対処することが唯一できる次元魔法というレアな魔法の使い手が役場の依頼を受けてその駆除を請け負っている、それが古墳バスターである……という設定だったような。要は次元のはざまとか異空間にあるダンジョンに自在に入ることができたり、反対に厄介なモンスターやなんかを別次元に自在に封印できる能力の持ち主という意味あいだった筈。でも、うーん、ストーリー読むとわかるんだがこの単語だけではやっぱりどんな能力を持つ女の子がどんな風に活躍するストーリーなんだかさっぱりイメージできない。

 当時のスニーカー文庫の人はなんでこのタイトルで決行しちゃったんだろ? と純粋な疑問がとめどなく溢れてくる作品である。


 

 ――そんなわけで、せっかく楽しませてもらったのにどうにもちょっと寂し気な展開を迎えそうな魔法少女ラノベを読んで蘇った「魔法を使う女の子が出てくる現代社会が舞台の、私は好きだったのにマイナーすぎて語られない古いラノベ」について思うさま語ってみた。


 うっかりこれを読まれました方々におかれましては、とりあえず「へー、そんなラノベがあったんだ」くらいに受け止めておいてくださると幸いです。つうか正直、それ以外に感想の抱きようもないと思う。


 ごめんよ、そんな話に突き合わせて……。

 



オマケがわりの注釈

(※1)

 アダルト業界で触手に襲われてる映像を撮らせるのが天職な魔法少女とか、いろいろあって娼婦をやらされてるけど魔法少女とか、ヤクザと北の街へ出奔する魔法少女とかなんかもうそういう話を書きがちなせいで信じてもらえなさそうですが、私は夕方とか土日の朝に放送しているような女児向けの王道なやつが一番好きなんんですよ。なんなら使える魔法は色んな職業のプロフェッショナルか若しくはスーパースターに変身できることのみな80年代なやつが一番好きなんですよ……(セーラームーンの影響受けまくりな90年代も悪くありませんが)。

 2010年代のこのジャンル、憧れの魔法少女になったと思ったら契約先はえっらいブラックでしたとか、魔法少女同士がガチで命の奪い合いをするやつとかちょっとエグめで邪道なやつが幅をきかせてるように思いますが、やっぱり王道あってこその邪道じゃないですか。ドアサニチアサあってこその深夜じゃないですか。

 というわけで本当は王道なやつが書きたいんですよ。本当は……。

(※2)

 私はブルマ絶対許さない民です。

(※3)

 80年代の魔女っ子が一番好きだって言ってる段階で世代について隠す気ゼロだろと自分でつっこんどきます。

(※4)

 この作品では少年主人公一人につきヒロイン二人というハーレム構成だけど、作者の人は別名義の方では結構百合百合しい作品も書かれていたりする。本作でも書き手の百合志向がうかがえる面がちらっと出ている。好みとしてはそっちの志向を全力で推した方がよかったのになと思わんじゃないが時代がそれを許さなかったのだろう。

 つうかなんでジュブナイルポルノとか官能小説とかで活躍してる別名義での作風を知ってるんだよ、お前は? と気にした方もいらっしゃるかもしれないけれど、その辺はまあ「お察しください」ということで。

(※5)

 魔法にSF的な整合性をもたせてる作品もたまに読むとよいものですが、そういう作品の中にあるロジックや大系やらなんやらに腐心しすぎているものをみるとはげしく興ざめするんですよね……個人の好みですが。

 

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