第6話 ラブストーリー……なんだった。(『うる星やつら』)
以前、拙作を読んでくださった方からキャラクターたちの描き方についてお褒めの言葉をいただいたことがある。
もうひたすら恐縮するばかりだけれど、誉められるとつい「そ、そうかな……。上手いのかな……?」と調子にのってしまう。誉めて頂くのは何をおいても嬉しいしありがたい。天にも昇るとはこのことかという心地もする。
群像劇志向なのか、ただ単にチーム萌え気質なところがあるのか、自分には無駄にたくさんのキャラクターを出したくなる癖がある。
管理と制御に頭を悩ませることになるのが目に見えているので普段は控えてはいるのだけれど、「一回ソシャゲっぽく女の子キャラクターをわっさわさ出してみたい! 後悔してもいいから!」という欲を優先した結果、ほぼ見切りで書き出してみたのが2018年六月現在連載している「ハーレムリポート フロム ゴシップガール」という小説になる。
そしてうっすら予想していた通りキャラクターの管理と制御に頭を悩ます羽目になっている……以上、宣伝終わり。
キャラクターの描き方については、自分なりのメソッドのようなものがないわけでは無いけれど、大体カンでやってるところがあるので人様に語れるほどに練れたものはない。というよりも、まだまだ勉強が必要なので語れる域に達していない(だからキャラクター出しすぎてヒイヒイいう羽目になっている)。
それでも「ひょっとしたらこれが活かされているのかも」と思い至るものはある。
昔から複数のキャラクターが出てきてとにかくドタバタする一話完結型のコメディー漫画やアニメ、テレビドラマが好きでよく読み、よく見ていた。おそらくその経験がかなり活きていると思う。
とくに漫画の『うる星やつら』はよく読んだ。言わずもがなな特大ヒット漫画ですね。
高橋留美子作品でいうと『らんま1/2』か『犬夜叉』な世代なのだけれど、私は『うる星やつら』派なのだった。
セクシーな格好をした可愛くてカッコよくて性格に癖のある女子キャラクターがたくさん出てくるせいかもしれない。可愛くて癖のある性格の女の子がいっぱい出てきては非常にくだらないことでドタバタドタバタやってる。楽しい。至福。
そんな具合で、惑星中学同窓会回など主に女子キャラクターが活躍する話だとか学校で起きるしょうもないイベントでのドタバタ回を重点的に読んでばかりいたので、たまにこの漫画の感想を読んだりする時に「浮気性の地球人男子とそんな彼に惚れてしまった美少女宇宙人のラブコメ」だったってことを思い出して愕然としたりする。
……そうだ、このマンガのジャンルはラブコメだった……。
ていうか、本当にラブコメなのかこの漫画は? いや間違いなくラブコメであるけれど、正直ラブコメの枠に押し込めるのはもったいなくない? 劇場版とかだと結局あたるとラムちゃんのラブストーリーでまとめる仕様になっているのは今見ると結構不自由そうに見えるよ、「ビューティフルドリーマー」好きだけど!
──前置きがやたら長くなってしまったが、本稿で訴えたいのは以下の点であった。
別にラブコメ漫画の枠に収めんでもよいのではないか、『うる星やつら』を……。
□■□
ラブコメ漫画であることをつい忘れがちになるのは、小さいころにリアルタイムで見ていたテレビアニメの影響が大きいかもしれない(大体の齢がバレるな……)。
初期の方はあたるの本命はしのぶでラムちゃんが強引に割り込むという形で話が進んでいたので、「勘違いで勝手に恋人になると宣言したあげく、その人が本当に好きな人と一緒になろうとするとビリビリを食らわせるこの女の人、怖い。嫌だ」と強烈に印象づけられたせいではないか……と推測する。
この印象のせいでなかなかラムちゃんの良さや魅力というのが理解できなかったりした。
いくら浮気やセクハラはよくないからとはいえ、あたるに電撃を食らわせる所がかなり怖いし、彼女の可愛らしい魅力を大幅に損なう面もあるのではないか? あれではとんだデートDVガールじゃないか……というようなことをよく考えていたものだ。
十代になって原作漫画に出会い、それから天真爛漫な可愛さが理解できるようになったものの、しばらくは「ラムちゃんが可愛いとおっしゃる男性ファンは、本当に自分の彼女がちょっとしたことでビリビリ食らわせるような女の子だったりしても平気なんだろうか……? ものすごく可愛いと電撃くらい許せるようになるんだろうか……?」としばしば考えてしまうことがあった。今でもその点について訊いてみたい気持ちは大いにある。
諸星あたるについても、実はラムちゃんと絡んでる時よりも他の女子にちょっかいかけてる時や面堂終太郎とかテンちゃんだとか、アニメ版だとメガネだとかと張り合ったりケンカしたり共闘している時の方がなんとなくイキイキしていて魅力的だと思っていたりする。
そういった点からも、なかなかラブコメ漫画であるというような認識がしづらいのではないかな……と考えている。
あのカップルの醸し出すおかしさとじれったさが根底にあってこその各キャラクターや各エピソードの魅力だとは分かっているものの、やっぱりドタバタコメディー漫画としての魅力の方が自分のなかで相当勝っているのだった。
□■□
繰り返し接したのは原作漫画の方だけど、テレビアニメ版もそれはそれで好きなのだった。
実は本放送時には「半裸のお姉さんがいっぱい出てくるけしからぬアニメ」ということで親に禁止されリアルタイム時にはあまりこのアニメをみられなかったので、結構大きくなってからの再放送を熱心に見ていた。押井守その他スタッフのクセの強い演出や独特のオリジナル回が十代二十代にとっては新鮮だったように思う。
ただ今現在視聴すると「なんでこの子らは高校生なのにこんなにおっさん臭いんだろう」としみじみ驚かされたりもする……。十代のころならおっさん臭さも「大人っぽい」という風に見えたのだけれど、今見るとシンプルにみんなおっさんだなあ、と。
テレビアニメ版の友引高校男子のおっさん臭さは、アニメ本放送時の男子高校生のリアルさをある程度反映していたのか、それとも作り手の高校生時代(=本放送時の高校生より数世代上の男子高校生のリアル)を反映しているのか、それとも全く現実からかけ離れた高校生像だったのか(まあ宇宙人が出てくるような漫画・アニメだしリアルではないわな……)、今となってはつきとめづらいことである。
□■□
テレビアニメ版、およびそれをベースにした劇場版をみていると、ラブストーリーとしてきっちりまとめようとスタッフが尽力されていること結構驚かされる。
ラブコメ漫画なんだから当たり前でしょう! という話にはなるのだろうけれど、先にくどくどと述べていた通り『うる星やつら』を特にラブコメだと認識していない者にとっては実はラブストーリーとして綺麗にまとめられることにそこまでありがたみを感じていないのだった。
というより、今までドタバタやってたのに急にラブストーリーでまとめようとされてもテンションさがるというか、そこまで律義にやんなくてもいいというか、正直ちょっと不自由そうだなあ、別に大騒動がメインでラブストーリーがサブという構成でもいいのに……というような、罰当たりな感想にすら行きつくのだった。
というよりも、そりゃあの原作をラブストーリーとしてまとめようとすると齟齬が生じて「女性原作者の考えることは分からん」とかそういう不幸な話が生じるのではないかと。なんなら、男女のラブストーリーとしてまとめなきゃならんという発想になるのが時代っぽいよなあ……というか。
ラブストーリーが先行して大騒動がおきるのではなく、大騒動が起きる中にラブストーリーがあるという形であってもよいのになあ、と個人的にはそんな風に思うが、まあ結局は単なる好みの話である。
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こちゃこちゃ語ってみたけれど、結局やっぱり可愛いくて強くてセクシーなお姉さんがいっぱい出てきて大暴れしているコメディー漫画として好きなんだ……というところに落ち着くことになる。
もし再アニメ化される機会でもあればそういう所を大いにフィーチャーしてほしいものである。
もしそんな機会があれば惑星中学同級生の面々をたくさん出してほしい。そしてラムちゃん以外の女の子キャラクターのグッズも出してほしい……。せっかく80年代ファンシーのリバイバルがきて何年も経つのにランちゃんグッズ出さなくてどうすんのさ……と本気で訴えたい。
――以上、非常にどうでもいいような願望をあらわにしてみた。
ともあれ、キャラクターの魅せ方や動かし方、管理の方法で今でもかなり勉強になる点が多いのでコメディーを書きたいという方には今でもお勧めしたい漫画である、ということで無理やり締めることにする。
(おまけ)
せっかくなので、キャラクターをいっぱい出したいときに実践してる方法など。
・主人公は巻き込まれ型にしない。
人によるかもしれませんが、巻き込まれ型より積極的に動くキャラクターの方が動かしやすいです。巻き込まれ型にすると「やれやれ」とか言いながら、その場の状況にひたすらツッコミ入れるだけのキャラクターになるので魅力が出しにくい。
積極的に動くキャラクターを作るのは苦手だわという方は、その主人公に何かしら大きな目的と「こいつはこれだけは絶対やらない」という設定を用意しておくとよいように思います。
・ツッコミ、もしくは常識人を用意する
変なキャラクターが複数登場するコメディーには常識的な価値観を持つキャラクターが不可欠になってきます。
ただどうしても割をくうキャラクターになってしまうのでツッコミを一人のキャラクターに専任させると読んでいて可哀想な印象になりがちです。メインツッコミ一人、あとサブのツッコミを複数用意しておくと良いです。メインのツッコミにある一点では激しくボケに転じるという要素を持たせておくとよいです。
主人公をツッコミにする作品は多いのですが、個人的にそれだと非常に書きにくいので脇キャラに任せることが多いです。
・ワイルドカードを用意しておく
何を考えているのか分からない、予測不能の動きをするボケのエースみたいなキャラクターですね。ネプチューンでいうところのホリケンだとか、「おそ松さん」でいうところの十四松とかああいうキャラクターです。今回とりあげた『うる星やつら』だと、おユキ、面堂了子あたりが相当するでしょうか。
キャラクター設定によっては大物感やサディスティックな印象を与える所もあるので、ある程度は必ず人気の出るファンタジスタ枠です。「こいつは予測がつかない動きをする」という点を活かして自由に動かせるので困ったときにも助かりますが、あまりに多用するとインパクトが薄れるという点を考慮することが大切です。なんならめったに出さないくらいがいい。
いわゆるオイシイ役割なので、設定はあまりモリモリのアゲアゲにしない方がよいとおもいます。それをするとメアリー・スーっぽくなるので。
・潤滑油もいる
特に際立った個性があるわけでもない穏和なキャラクターです。キャラクター同士が衝突した時などギスギスした印象を和らげたりするときに必要になります。サブツッコミなどと兼任させるとよいです。
・ペアのキャラをつくる
ともに行動をするキャラクターですね。私はニコイチなキャラクターが好きなのでペアになっているキャラクターを用意しがちです。
大勢のキャラクターが勢ぞろいする場面などでも「この二人はペアで動かす」という風にあらかじめ決めておくと迷子になりません。
三人以上のチームも同様です。
・どのキャラクターもおなじピントで書かない
「この回はこのキャラクターをメインにしたい」となったらそのキャラクターにスポットを当てる。他のキャラクターはメインにしたいキャラが引き立つように配置する、遠近感やメリハリを考えるのが大事だと思います。
――まあ大体、基本のキなやつですね。わざわざ語るようなものでもない気がしましたが、せっかくなので……。
それにこれをトクトクと語っている自分が実践できてるとは限りませんし、まあ話半分でお読みください。
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