19
翌日。
臨時休講が解け、いつもと同じ朝が来る。時間割り通り進む中、僕も廉人も何も言わなかったけど、隣に並んで授業を受けるのはこれが最後かもしれない事を感じていた。
放課後、校門を出ると2人でゆっくりと歩き出した。
「なんか、ちょっと変な気分」
「自首の付き添いが?」
「自首…とは違う気もするけど、なんだろう。悪戯して職員室に呼び出された時みたいな」
「経験あるの?」
「ない」
とりとめもない事を話しながらも、歩みを止めることはない。
目的地が近付くにつれ、口数が少なくなってきた。
「緊張してる?」
「そりゃあね」
「どうなるんだろうね」
「わからない。けど、もう決めたから。大丈夫」
「廉人」
「何?」
「初めて実習で料理を完成させた時さ、将来同じお店で一緒に働けたら面白そうだよねって話したでしょ」
「懐かしいな。そんな話もしたね」
「あれさ、今でも変わらないから。これから先どうなるかわからないけど、僕待ってるから」
「雪夜…ありがとう」
廉人の起こした事件は、犯罪とするには証明が難しいそうだ。
明確な殺意があった訳ではないが、危険性を認識していながら何もしなかった事で、何かしらの処分を受ける事にはなるだろう。
ただ、虐待にあたる行為を受けていた事や、未成年という事情がある程度は考慮されるはずだ、と思いたい。
ここから何年も先、いつか2人で話した夢物語が現実になる日が来ればいい。
春の日差しの下、大きく背中を伸ばすと、再び学校へと足を向ける。
「廉人がいない間にもっと料理の腕を磨くぞ。自主練自主練!」
歩き出したその足は、少しずつ速くなり、気付けば駆け足になっていた。
また2つの道が交差する日を信じて。
秘密のレシピ 柚城佳歩 @kahon
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