18


「そのネックレス」

「ん?」

「前に見せてもらった時、赤ちゃんの頃から持っている、唯一本当の親との繋がりのものだって言ってたよね」

「そうだよ」

「“廉人”っていう漢字は、引き取られる時に学校長が考えてくれたものなんでしょう」

「…うん。母から聞いた話だと、一廉ひとかどの人間になれるようにって想いを込めたらしい」

「あのね。名前は、生まれてから最初に貰えるプレゼントだよ。だから学校長も、そして廉人を生んでくれたお母さんも、ちゃんと廉人を愛していたんだよ」


廉人ははっとしたように見つめ返す。


「学校長のやり方は間違っていたと思うけど、漢字に込めた想いはきっと真実ほんとうだよ。だからって手を上げるのは絶対にダメだけど、自分も好きな料理の道に進んでほしいと思っていたのかも」

「……」

「僕は、ここに入学してから廉人と出逢って、今まで一緒に授業を受けてきて、全部の時間楽しかったし、実習の時は頼もしかったし、いろんな事話せる友達だともライバルだとも思ってる。

だから、廉人がそんなになるまで気付けなかった事が、全然何も言ってくれなかった事が悔しい。すごく悔しいよ」


言いながら、目の端が熱くなる。

恩着せがましい偽善に聞こえるかもしれない。

それでも、今想いを伝えたかった。


「…ありがとう。俺も、雪夜の事は友達ともライバルとも思ってる。あのさ、今回の事は事故で話が進んでるけど、明日もう1度警察に話してみるよ。その時は一緒に行ってくれる?」

「うん、もちろんだよ!」


春の夜、初めて出逢った時の様に、僕と廉人は握手を交わした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る