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廉人は、本当の親を知らない。

桜の花びらが舞うある春の日、施設の門の前に毛布にくるまれた状態で泣いているところを所長さんに発見された。


4才までその施設で育ったが、寄付をしに来ていた学校長が廉人を気に掛け、その後引き取られたらしい。


その頃から手先の器用さを発揮していた廉人は、料理の基礎を仕込まれ、小学校に上がる頃には一通りのものは作れるようになっていた。


いつも側にいてくれた母は優しく、父である学校長は仕事で忙しくしていたが、たまに家に居る時は一緒に料理をしたり、遊園地などにも連れていってくれ、仲が良い家族だった。


変化が訪れたのは中3の秋。

元々身体が弱かった母が、肺炎を患い入院中に亡くなった。


そのあたりを境に、今まであまり口を出してこなかった勉強の成績にも厳しくなり、家では料理の課題を出すようにもなる。

失敗すると怒鳴り、時に手を上げられる。

それが高3までの約4年間続いた。


「近くに置いてあったスープが溢れて火傷した事もあったよ」

「プールの時はどうしてたの?」

「そうなったのは秋頃だったし、高校にはそもそもプールの授業がなかった。バイトも出来ない中学生じゃ何処にも行けないし、高校生になってからも未成年じゃ何をするにも親の承諾が必要だから、家を出ることも出来なかった」

「…何かもっと早く、どこかに相談とか出来なかったの?」

「今ならいろいろ思い付くんだけどさ、その頃は“逃げる”って選択肢が浮かばなかったんだよね」


廉人はどこか吹っ切れたようにも見える。

掛ける言葉を探せずに、視線を彷徨さまよわせていると、先程渡したネックレスが目に入った。


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