少女の願い

 ええ、勿論よ。

 私は生まれた時から、こんな状態だったから姉さん以外の人とまともに話したことがなかったの。男の人と話したのなんて、それこそ数えるほどしかなかったわ。だからね、運命なのかもしれないってこっそり思っていたの。

 だってそうでしょう?

 会って間もないと言うのに、楽しくお喋りをして一緒に暖かい食事をする。それなのに、嫌な気分にならないなんてきっと私と貴方は相性がいいのねって思ったの。

 貴方と過ごす日々に、不満なんて無かったわ。

 ………不安は、時折感じていたけれど。

 貴方が、嫌になって何処かへ行ってしまうのではないかって。夜、眠りにつく前には毎日お月様にお祈りしたわ。

 貴方とまた、朝ご飯が食べられますようにって。

 どうしてって、目が見えない私の世話をするのに嫌気がさして貴方が消えてしまわないなんて保証はどこにもないじゃない。卑屈って、仕方ないわ。貴方は私の前に現れた、唯一無二の光。これ以上無いほど愛おしい人。貴方のいない日々なんて、考えられなくなってしまっていたんだもの。

 姉さんの説得、二人で頑張ったわよね。

 一ヶ月位かかったっけ。

 冗談で、二人で逃げちゃうって私が言ったら、真剣な顔をしてそれは駄目だって言ってくれた。君のたった一人の家族なんだから、祝福して貰えなければ意味が無いんだって。

 熱烈な愛の告白よりも、ずっとずっと心に響いたわ。

 本当に私のことを愛してくれているんだって分かったから。

 それからは本当に、幸せな毎日だった。

 大好きな人と一緒に年を重ねて、おじいちゃんとおばあちゃんになって。

 だからね、今更貴方の姿を見ても私の愛が揺らぐことはないと誓えるわ。

 私の大好きな人の顔を、見せて貰えないかしら。



 そう言うと、おずおずと抱きしめられていた腕から力が抜かれる。そっと両肩に手が置かれてやっと愛おしい人が顔を見せてくれた。

「………思ったより、ずっと素敵よ」

「本当に?」

「少しだけ、恐ろしいと思ってしまったわ。でもね、貴方がとっても優しいことを知っているから平気」

「よかった。本当に良かった」

「ふふ、私神様に感謝しなくてはいけないわ」

 そう言って、彼の頬に手を添える。真っ赤な痣を撫でながら、知らずに頬が緩んでしまう。

「目が見えていたら、貴方を追い返してしまっていたかも知れない。それは、否定できないわ。貴方が貴方であることを知らなかったら、そんなことをしてしまっていたかも知れない。だからね、私貴方と添い遂げられるように取りはからって下さったんだと思ったの」

 麗しい花々に囲まれながら、二人はまた抱きしめ合った。

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怪物の恋 戸崎アカネ @akane1203

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