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今さら自分だけが、安全な場所で事が終わるのを待つのは、どう考えても違う気がする。わたしは当事者のはずだ。まだ何も分からないし知らされていない。自ら望んだという、キィの役回りも不明なままでは心配だ。
応急手当を受け、病院へと運ばれるユリカを見送り、私はキィと共に
「君が見た、海に住む者たち――僕達は深きものと呼んでいるが、彼らにも信仰があってね。海の底でずっと眠り続けている、彼らの創造主を
後続の車は途中で見えなくなった。黒塗りのワゴン車の行き先は別のようだ。スモークガラスの向こうはうかがえなかったが、巫女や黒人が乗り込むさい、洋画で見る特殊部隊の様な装備の男達が、中に数人座っているのが見えた。
「人やイルカや魚とも交配できるから、様々な見た目をしている。彼らの中にも派閥があって、神様が眠り続けてくれるよう、
宗也さんは異形の姿の存在を
「拝島は人に取り入るのに長けた男でね。そういった存在とも繋がりがある。さっき君達を襲ったヴァンイップもその誰かからの
何だろう。すごく不穏で現実味のない世界の話を聞かされているのに、その内容が全てがすとんと
「
宗也さんの話を聞いているうち、ふと思い当たった。それは海に住むものたちの、穏健派と過激派の話に
海で失踪し、死体も上がらなかった秘宮のおばあちゃん。異形の存在を
水天宮の
「遅かったな郁海。そろそろ準備を始めるよ」
境内で待っていたらしい拝島伯父が、石段の上で、騒ぎに気付かないようにわたしを出迎える。当たり前だが、わたしにはもう祭祀に参加する気はさらさら無い。宗也さんの隣で動かない私に苦笑して見せると、伯父は取り巻きにあごで指図する。
「拝島さん。来て貰うのはあなたの方ですよ」
宗也さんの構えた拳銃に、男達の動きが止まる。植え込みに潜んでいたらしい男が宗也さんに飛びかかった。わたしが気付かないほど速く間合いを詰めたキィは、回し蹴りで男を叩き伏せる。石畳に倒れ付す男は、魚の顔を持っていた。もう拝島伯父は隠す気もないらしい。
「キィ。好きにしていいよ」
優しげな微笑を浮かべたまま宗也さんが告げると、キィはわずかに頷き、無言のまま石段を駆け上った。迎える男達は銃や刃物を構える。すぐに乱戦が始まった。
「マキシ達も気が早いからなあ。こっちに合わせず始めるんだから」
わたしは宗也さんの先導で、
拘束着の少女は独楽のように動き回り、脚技だけで男達を倒してゆく。相変わらずの無表情ながら、どこか楽しげな気配さえ感じる。相手は銃や刃物を持っているのに、ハラハラさせられることさえない。
「……あんなに強いなら、どうして浜辺では抵抗しなかったのかな?」
「誰も指示をしなかったからだろうね。勝手に車から抜け出したのは驚いたけど、深みのもの程度じゃ、初めからキィをどうこう出来るはずがないし」
「でもその……いやらしいことは……されてたけど?」
目を逸らしながらのわたしの問いに、宗也さんは眉を上げ、肩をすくめてみせた。
「キィにしてみれば、犬がじゃれ付いている程度の認識さえなかったのかもね。やっぱり女の子相手に性教育は難しい。僕の教育の
あれは半分以上この人の責任か。思わず半眼で見てしまうも、同時に尋常じゃないキィの身体能力も理解する。
「
拝島伯父は
「どうやら誘われているみたいだね」
銃を構えたまま身を低くして走る宗也さんのあとに続く。中をうかがうと、床板が
https://kakuyomu.jp/works/1177354054884676877/episodes/1177354054884680999
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