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意識を取り戻すと、あたりに無数の魚人たちの死体が転がっていた。
どれも巨大な刃物で切り裂かれたれたように、切断面を
胃の中のものを全て戻し、わたしは状況を思い出した。
§
「……キィ?」
わたしだけでなく、海斗や魚人達までもがその神秘的な光景に目を奪われ動きを止めている。キィはまどろむように半ば
重さを感じさせない動きで、ふわりと夜道に降り立つキィの前で、魚人は滑らかな断面を晒し、縦に二つに裂け崩れ落ちた。遅れて吹き出す返り血が拘束着を赤く染めるのにも構わず、固く上体を拘束されたままの少女は、機械的に
我に返った魚人達は恐れる様子も見せず、憑かれたようにキィに群がってゆく。彼女には魚人を惹きつける何かがあるのだろうか。跳びかかる無数の魚人も、キィの歩みを遅らせることすら叶わない。
白い拘束着が舞い、黒髪が流れるたび、切断された手足と赤い血が巻き散らかされる。それでも脚だけで立ち回るキィひとりを相手に、ただ
§
「大丈夫か?」
「ん……へいき」
わたしに
キィの登場でわたしや海斗に向かって来る魚人の数は減ったが、それでも囲みを抜けることは容易ではない。海斗に
「あの子……いったい何なのかな?」
月の光をエナメルの光沢が反射しているのか。しなやかに振るわれるキィの脚は虹色の軌跡を描く。ふと、彼女の目がじっとわたしを見ているのに気付いた。魚人を解体しながら徐々に、だが確実に近づいてくる。
キィの半眼と視線を交わすうち、おぼろな予感が確信に変わった。
彼女はわたしを救い出しに来たんじゃあない。
わたしを終わらせる為に現れたんだ。
そのことに気付いてしまったわたしは、引きつった顔で
「海斗!」
疲れ切っているはずの海斗は、目の前の魚人を叩き伏せると、荒い息を吐きながら、歩み寄る拘束着の少女と
虹をまとうキィの脚は、触れただけで相手を切り裂く。乱入する魚人を肉片に変えながら、
「郁海……」
浜辺からわたしを呼ぶ声がする。魚人に襲われたのか、傷だらけになったおばあちゃんが、
そうだ。
覚えている。
思い出した。
一歩海に踏み込めば変われる。
すべてを変える事ができる。
おなかを空かせて食べたい物を我慢することも、行きたい場所をむなしく夢想し、ただあきらめることも、
「どうしようもなく嫌な事ばかりだったけど、それでも無くしたくない物はあったんだよ!」
真横に振り抜かれようとしていたキィの蹴りが止まる。
とっくに立てなくなっていた海斗がくず折れた。
キィが止めていなければ、その身体は両断されていただろう。
「…………」
不思議そうに。
初めて表情らしいものを見せ、キィの瞳が波間に立つわたしを映す。
その表情を穏やかな
「ふ……ふふ……あはははははははははは!!!! ッ!!」
あふれる
額に銃撃を受けたようにその面を天に向けていたキィは、ゆっくりと顔を下ろした。
「せっかく遊びに来てくれたのに、遅くなってごめんね」
キィの
月の光に照らされるその髪は白く、見開かれた瞳は真紅へと
夢の中だけのともだち。
わたしが覚えていなくても、彼女はちゃんと約束を叶えに来てくれたんだ。
本来スペアとして眠っていなければならない身だ。おかあさんが知ったら怒るかもしれないが、わざわざ会いに来てくれたともだちの好意を
海風に揺れる純白の髪は、わたしの
どろりと。
髪の間から流れ落ちる血が、青白い肌を
「似合ってるよ。そっちの方がぜんぜん綺麗だ」
お世辞ではなく、心の底からそう思った。
たった一人でこの
頭の傷は、虹色の光からのぞく超微細な触腕の群れが
間合いの外から蹴りが放たれる。
キィは止まらず
「こんなものなの?」
強力な攻撃だが芸がない。そろそろ反撃に移ろうとしたその時、一撃目のフェイクの後に隠された二撃目で胴を両断された。
油断した。
霊体まで届く傷ではなかったが、
久し振りの楽しみに湧き立つわたしの目に、ふと先ほどキィに倒された若い
なんだ?
見詰めているのは断たれたわたしの下半身か。
子供、か……。
わたしが
それでも、
https://kakuyomu.jp/works/1177354054884676877/episodes/1177354054884680139
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