~~

本宮ほんみやにはちゃんと出ます。最初からそのつもりです」

郁海いくみ!!」


 える海斗かいとを制し、拝島伯父はいじまおじの目を強く見据える。


「その代わり、関係のないこの子は巻き込まないで下さい。お願いします」


 勇魚の目がわずかに揺れる。


「分かった。約束しよう」


 傲岸ごうがんな振る舞いばかり見せる伯父も、私が強い意志を示すと受け入れることもあった。その基準は分からないが、彼にも親代わりとしての、最低限の意識があるのかもしれない。


「責任を持って保護者の元に送り届けよう」


 にこやかな笑みを浮かべて男の一人に指図さしずするが、私はその役目に海斗を指名した。


「民俗学を研究してるっていう若い男の人が、資料館に滞在してるはず。その人のところに連れて行ってあげてね」


 この場で信頼してキィを任せられるのは海斗しかいない。それは同時に私にとっても、ただひとりの頼れる味方と離れることにもなるが、いまはこの選択が最適に思えた。


 巫女装束にそでを通し、拝島伯父達とやしろへ向かう。さすがに今回は着付けまで監視される訳ではなかったが、逃げ出さないよう、部屋の外に男達が待ち受けている状態では、裸でいるのと変わらない気分だった。


 向かう先は境内のすみにある摂社せっしゃのほうだった。宮司が祝詞のりとを唱えるあいだ、私は納められている色褪いろあせた古い竜の絵を、不安な気持ちで眺めていた。


 本殿を素通りして宝物殿へ向かう。祭具さいぐ神輿みこし、古い刀や鎧までもが整然と納められている。それなりに価値のある物もあるらしく、子供の頃から例え掃除の手伝いでも入ることは許されていなかった。奥まで進むと積まれた箱に隠されるように、地下への階段があった。


 深い。どこまで続くのだろうか。しばらく降りると壁は岩肌に代わり、気付けば洞窟の中を歩かされていた。

 静寂の中、どこかから歌声のようなものが聞こえてくる。


 辿り着いたのは岩壁の広間。昔なら松明が掲げられていたであろう場所に、照明が備え付けられ、辺りを照らしている。こうでもかれているのか、甘ったるいえたにおいがただよい、少し息苦しい。

 奥の岩壁に、先程から聞こえる歌声の主がいた。


 元は大きな魚だったのだろうか。7mを越える長い体躯たいくを折り曲げられ、鉄釘てつくぎで標本のように岩壁に打ち付けられている。完全にミイラ化した身体は皮をかれ、所々骨までのぞいている。元は扇のように美しかったであろう尾鰭おびれも、朽ちて歯の欠けたくしのように成り果てている。こちらに向けて固定された頭部は、奇妙なほど人間めいて。開いた口腔の中、印を彫られた舌だけが、今でも生々しく動き続けることを強いられていた。


「おや、あまり驚かないね」


 充分以上に驚いている。わたしはなぶるような拝島伯父の声に応じることもできず、ただそれの顔に見入るばかり。


「これが祭神さいじん汐入媛しおいりひめだ。……いや、祭神かな。今は私の神器じんき浪唄媛なみうたひめだが」


 作り物のミイラだと疑う余地よちは最初から無い。それでは響き続ける歌声とうごめく舌の説明が付かない。

 本物の怪異に直面しているというのに、驚嘆きょうたんだけでなく、今まで感じていた恐怖や焦燥しょうそうも奇妙なほど薄らいでいる。なぜかただ眠くて仕方がない。


「本当に、晦冥かいめい様へ奉納ほうのうせずに宜しいのですか?」

「まだ先で構わないさ。あの方と私達とでは時間の感覚が違うよ」


 不安そうな宮司の声に、伯父は鼻で笑って応えた。


「正気に戻られて、晦冥かいめい様諸共に罰を食らうのも面白くないだろう。が大人しく本当に捧げ物になる状態か、確認しないとな」


 伯父にうながされ、美魚みおが私の装束を解き始める。微かに抵抗の意志が浮かぶも、直ぐにどうでも良いことに思え、気持ちがえてしまう。

 肌襦袢はだじゅばんも脱がされ、代わりに黒い革の帯を巻かれ身体の自由を奪われる。鮭皮のようにうろこを持つそれは、汐入媛しおいりひめと呼ばれたミイラからぎ取られたものではないかと、うつろな思考のまま理解した。


 美魚に代わり、男達が素手でわたしの体中に香油を塗り始めた。

 いつの間にか人数が増えている。革帯はわたしを縛るためのもので、あらわになった胸も下腹部も隠すことさえできないのに、ほんのわずかな羞恥しゅうちしか浮かばない。それもやがて、身体をほぐされる心地良さに押し流された。


 男達はすでに下帯だけで、一様に息を荒げている。体中をい回る指はらすように、何故か肝心な部分には触れて来ない。そのことがおかしくもあり、もどかしくもあった。


 拝島伯父は少し離れた所で椅子に座り、薄笑いを浮かべながら私の痴態ちたいを眺めている。膝に抱いた美魚の装束の身八みやぐちから差し入れた手が白衣の下で淫猥いんわいうごめき、甘いあえぎ声を上げさせてる。


 親娘おやこなのに異常だとは、なぜか頭に浮かばなかった。

 肌を紅く染めた美魚は侮蔑ぶべつの表情を浮かべわたしを見る。

 恥じるよりもむしろ、美魚のことをうらやましく思った。


 見透みすかすような笑みを浮かべ、美魚を押しやり立ち上がった伯父が歩み寄る。

 命じられるまでもなく、私は足を開き腰を浮かし、濡れそぼった秘所を晒した。

 伯父の猛々しく隆起りゅうきしたものが、くちくちと入り口をなぶる。


 ああ、これでやっと。

 つぶやいたのは私だったか目の前の男か。



https://kakuyomu.jp/works/1177354054884676877/episodes/1177354054884679785

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