~
抵抗しないのを合意と取られたのか。海斗は胸に置いたままの手で
「ちょ、ちょっとまった。こんなことしてる場合なの?」
わたしの抗議は聞き流され、そのまま押し倒されてしまう。
「大丈夫……大丈夫、俺が守るから」
震え声で繰り返される言葉を耳にし力が抜ける。
そうだ。海斗が来てくれなきゃ、あのまま
思い描いてのとはまるで違い、初めての経験はちっともロマンチックなものじゃなかった。キスでは歯をぶつけるし、着たばかりのワンピースをしわだらけにされるし。海斗の
それでも、わたしを
繋がったまま2回目を始めようとする海斗を引き
§
隣町へ出るには、県道を行き橋を越えたほうが早いが、
子供だましだが、2人で力を合わせれば何とかなりそうな気がする。夜道を駆け続け、わたしが疲れたそぶりを見せると、海斗は気遣いすぐに足を止めてくれる。
「もうお姫様抱っこはしてくれないの?」
「ば……馬鹿いうな」
両腕を差し出すと、海斗は赤くなってそっぽを向いた。もっと恥ずかしいことを済ませたばかりなのに。もっとも、わたしも海斗に頼り切るになるつもりはない。
人家の灯りが遠くなり、海と山の
「……おばあちゃん?」
気のせいかと辺りを見回すと、月明かりに照らされる波間に、何かが浮かんでいるのが見えた。
魚人?
海斗に
「
「おばあちゃん!?」
声を発していたのはその生き物だった。
人の顔を持つそれは、わたしに懐かしいおばあちゃんの声で語りかけた。
「
「郁海……」
汐入媛?
おばあちゃんの顔をした海獣は、叫ぶ海斗には構わずわたしに呼びかけ続ける。偽物でも化物でもない。本物のおばあちゃんの優しいその声に、わたしは怖さなど
懐かしさが胸にあふれ、駆け寄って縋り付きたくなった。でも、それはできない。泣き出しそうになるのをぐっと
「ごめんね、おばあちゃん。もう海斗と行くって決めたの。連れ出して貰うんじゃあない。自分の足で一緒に歩いて行きたい」
長い沈黙のあと、おばあちゃんは
「可愛い郁海。幸せにおなり」
海面に幾つもの頭が浮かび上がる。今度こそ開きっぱなしの目を持つ魚顔の群れだ。
「海斗!!」
魚人達は浜辺に上がったおばあちゃんに構わず、わたし達を取り囲むように次々と道に跳ね上がってくる。
「悠長に構えすぎたか」
海斗は山側の壁にわたしを
「心配すんな。俺の子を
「ちょ、……
海斗の軽口に、状況を
雰囲気に流されて中に出させてしまったが、今日は安全日だったか?
不安になりそっと下腹部に触れてみるも、何が分かるはずもない。
目だけでわたしに合図を送ると、海斗は魚人の群れに跳び込んで行った。
遅れないよう必死に後を追う。
おばあちゃんの歌声が聞こえる。
月明りに照らされた海面に、人の形をしたものと人の形でないものが争っているのが見える。
わたし達を応援してくれるのは、おばあちゃんだけじゃないようだ。
海斗は何体もの魚人を倒しているが、まだ数メートルだって進めていない。
「ごめん海斗。やっぱり無理かも……」
足を
不意に辺り一面、虹色の光に包まれた。
§
目立ってきたお腹を撫なでながら彼の帰りを待っている。
まだ働けるって言ったのに、海斗は
部屋の中でひとり封筒折りの内職を続ける。
ユリカのおばさんに紹介して貰ったこの部屋は格安だけど、
この子が生まれたら海斗ひとりの稼ぎじゃ心配だ。
窓からは霧に
霧の中に立つ大きなものの気配がする。
わたしを赤い一つの目で見つめるのを、
気付かない振りでやり過ごす。
おかあさんになるってどんな気持ちだろう。
この子にどんな名前を付けてあげようか。
そう、たとえば――
生まれてくる我が子を
そんな夢を見た。
§
https://kakuyomu.jp/works/1177354054884676877/episodes/1177354054884680135
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