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「どうして
ドライヤーを使うことも止められたので、洗い髪のまま
浜辺での出来事は全て海斗に話してある。キィを襲っていたのが魚の顔を持つ男達だということだけはぼかしたまま。その一点だけで、話の全てを信じて貰えなくなるかもしれないと考えたからだ。
「
キィに心底邪魔そうな
おばあちゃんからは水天様としか聞いていなかったが、これでも
「
「あの、あんまり怖くない竜の絵でしょ?」
何度か見たことがある。水神様の使いの竜だからか、ひれを持ち、深海魚のリュウグウノツカイの様な姿で描かれていた。
「もともと
それは驚くほどの話ではない。昔から信仰されていた土着の神様が
「それがどうだっていうの?」
「本宮は古い神のための祭りだ。行けば隠された人でないものと関わる事になる」
じわりと。
背筋に寒気を感じた。
魚人のことは海斗には話していない。魚の顔をした男たち。人の顔をした魚の神さま。海でいなくなったおばあちゃん――海斗が
不吉な想像にめまいにも似た感覚に囚われるわたしを、ドアをノックする音が現実に引き戻した。
海斗が殺気めいた視線を投げる。
「だいじょうぶ、美魚ちゃんだよ。私がさっき着替えを頼んだから」
薄暗い部屋に充満した、異様な空気を払ってくれたことに感謝しながら、私はノブに手を掛けた。
「馬鹿、開けるな!」
ドアの外には、申し訳無さそうな顔をした美魚が、巫女装束を手に立っている。
「なんだ、部屋を暗くして。仲の良いのは結構なことだが、
後ろに立っていたスーツ姿の男が、宮司と数人の男達を引き連れ、美魚を押しのけ無遠慮に部屋の中に踏み込んできた。
貿易で財を成したとも鉱山主だとも言われるが、ほとんど
「美魚から聞いたよ。着替えが必要なんだってね。少し早いがちょうど良い。このまま準備を始めようか」
軽妙な口調でもおどけるように言ってのける。
「
唸るような海斗の拒絶は、拝島伯父に
養って貰っている身だとはいえ、わたしもこの人が苦手だ――いや、正直に言えば恐れている。
どこからかそのことを伝え聞いたのだろう。ある日わたしを呼び付けた拝島伯父は、目の前で宮司の指を
その日からわたしへの
「おや……こちらのお嬢さんは?」
取り巻きに明かりを点けさせ、
芝居がかった仕草の伯父の後ろで、宮司や取り巻きの男達が息を荒げ、まばたきの無い血走った目で少女に見入っているのに気付いた。
月に照らされる浜辺での光景が脳裏をよぎり、ぞっとしてわたしはキィを抱き寄せる。拝島伯父を睨み付けていた海斗は、キィに目をやり言い放った。
「こいつを連れて行け。代わりくらいにはなるだろう?」
「海斗!?」
海斗の言葉の意図するところを悟り
私の代わりにキィを差し出すつもり!?
海斗は、見ず知らずの少女を犠牲にしなければならないほどの危険が、本宮に参加するわたしに降りかかると考えているらしい。
「それはそれ、これはこれだ。何年も前から決めていたこと。そう簡単に
「めんどくせぇ……あんたら全員始末して、俺が
海斗はキィをかばうわたしと拝島伯父の間に割って入る。
「出来るのか、お前に?」
「
「郁海は俺の……俺だけの女だ!!」
何これ、これが告白なの……?
海斗から気持ちを伝えられたことは今の今まで一度だって無い。
その初めてがこんな場面で、こんな物言いで。
違う。これは告白なんて甘酸っぱい物じゃない。何かもっと生々しくて、もっと本能剥き出しの――
わたしの意志を完全に無視し、目の前で繰り広げられる親子喧嘩に対する怒りが、押し潰されそうなほどの不安と恐怖とを押しのけた。
「寄ってたかって勝手なこと言うな! わたしがどうするかはわたしが決める!!」
「少し考えさせて」
https://kakuyomu.jp/works/1177354054884676877/episodes/1177354054884679712
「本宮にはちゃんと出ます」
https://kakuyomu.jp/works/1177354054884676877/episodes/1177354054884680600
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