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すぐ後ろまで奴等が迫っているような気がする。
こっちだよ。
懐かしい声が聞こえた気がして、わたしはキィともつれるように社に転がり込んだ。
入れたんだ、ここ。
子供のころ、
教えられなくても、入ってはいけない場所だと知っていたからだ。格子からのぞくと、小さな台にお
「大丈夫?」
声を
逃げるのに必死でそれどころじゃなかったが、臭いでキィが精液まみれなのを思い出した。触れてしまった嫌悪感で鳥肌がたつも我慢する。この子はもっと酷い目にあったんだ。
せめて顔や髪だけでもと、ハンカチで
このまま
わたしは携帯を取り出すと、一番最初の連絡先を呼び出した。
「海斗……いま
からからに渇いた喉でつかえながらも簡潔に告げる。説明しても信じて貰えるとも思えない出来事だし、自分でもどう説明して良いか分からず混乱している。待ってろと一声だけの返事だったが、放り投げるような
胸に抱くキィはわずかに瞳を動かし、不思議そうな顔で私を見ている。
精液の臭いや
ふと、虫の声が止んでいるのに気が付いた。
耳鳴りがしそうな
高鳴る
かり。
扉の方から引っ掻くような音が聞こえた。
呼吸も忘れ身を強張らせていると、格子から差し込む月明かりに影が落ちた。
風で樹の枝が揺れたんだ。
そう思い込もうとする私の耳に、どこかで
「開けろ……」
扉越しのささやき声に、びくりと身をすくめる。どれだけの時間動けずにいたのか。
……海斗?
音を立てぬよう
扉に手を掛けた瞬間、不意に怖い考えが浮かんだ。
――もしも、海斗じゃなかったら?
携帯を取り出し、光がもれぬよう手のひらで隠しながら操作する。
すぐ側で呼び出し音が鳴り響いた。
溜息と共に全身の力が抜ける。
「自分で開けなさいよう!」
助けに来て貰って何だが、今まで晒された緊張の反動で、怒ったような口調になってしまう。
「ッ!」
ささくれで引っかけでもしたのか、左手の指先を気にしながら海斗は扉を引き開けた。
「無事か?」
辺りをうかがいながら中をのぞき込み、私に安堵の表情を向ける。だが、奥にもう一つ人影を認めると、その顔はわずかに歪んだ。
私一人だと思い込んでいたからか。あるいは立ち込める性臭のせいか。嗅覚が麻痺した私と違い、海斗には
「説明はあと……すぐにここから逃げよう」
§
魚人は追って来なかったようだ。やはり浜辺から離れたくないのだろうか。
キィを連れたわたしは、拝島家の離れ、海斗の部屋に
日付をまたぐ頃に始まるおこもりに参加するため、遅くても11時頃には
「その前に、シャワー貸してよう」
魚の頭の怪物のことも、
「何を
「のぞないでよう?」
海斗の不満の声を封じ込めると、私はユニットバスの扉を閉めた。
手早く服を脱ぎ、それをタオル代わりに、キィの身体にこびり付いた精液を
暑苦しい
白いエナメル革のほうも、破ったり裂いたりできる強度ではなかった。バスルームから手だけを出して海斗にハサミを要求したが、切るどころか傷を付けることさえできなかった。
拘束着の本来の目的を考えれば当然か。だけど、キィはなぜこんな物を着せられているんだろう?
――薬を飲まされてるのかな?
ぼんやりとしたままのキィの表情で思い当たる。暴れたり、
――ひょっとして、薬漬けの少女を
気弱そうな
考えても分からない。とりあえず服を脱がすのはあきらめた。幸いな事に首周りはぴったりとしていて、服の中に精液が流れ込んだ様子はない。
濡らしたタオルで顔を拭ってあげてから、シャワーで拘束着ごとキィの身体を洗い清めた。
ボイラーの音で気付かれると、海斗からお湯を使う事は禁じられているが、
「はい、ここ。頭のせて」
お風呂いすに座って太ももをとんとん叩くと、素直に頭を乗せてくる。
小さい頃はおばあちゃんによくこうして貰ったっけ。
長い髪を流水ですすぎ、シャンプーで繰り返し洗う。表情は変わらないが、水を掛けるとき目をぎゅっとするのが可愛らしい。リンスが無いのが不満だが、トリートメントをしている余裕もなさそうだ。自分の髪と身体を手早く洗い、バスタオルで身体を拭く段になってようやく、着替えがないことに気が付いた。
下着もなしで海斗の男物の服を着るのはどうにもためらわれた。少し迷ったが携帯で
https://kakuyomu.jp/works/1177354054884676877/episodes/1177354054884679570
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