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 何がきっかけだったのか、型抜きの屋台の前にいる。

 やったことのない遊びだから、店主のお爺ちゃんに聞いてみると、型抜き菓子に描かれた絵をうまくくり貫けば良いらしい。


「これ、食べられるの?」

「違うないくみん。反応すべきはそこじゃない!」


 一回100円。難しい絵柄を貫けると、賞金が出るのだとか。ユリカの闘争心に火を点けたのはそこか。


 地味な割りに時間が掛かるためか、あまり人気が無い。今の子供は携帯ゲームに集中できても、こんな素朴な遊びでは刺激が少なくて物足りないんだろう。人の良さそうな店主がちょっと気の毒になって、わたしも型を買った。


 ユリカが挑戦しているのは賞金1200円の馬。わたしは成功すれば300円貰える魚に挑戦することにした。ヒレの部分が細かいけれど、これくらいなら何とかなりそうだ。


 画鋲の針でひたすら線をなぞる作業は、5分くらいであきてきた。もっと他のお店も見て回りたいのに、時間が取られてしまう。削り落とした部分をかじりながらぼんやり辺りを見回していたら、人ごみの中にどこかで見た顔を見付けた。


「やあ、また会ったね」


 よろずやで会った素人民俗学者。確か、みぎわさんだったか。


宗也そうやでいいよ。浴衣似合ってるね。神社の手伝いは良いの?」

「わたしのお役目は明日の夜です。夜に弱いから、一晩起きてられるか不安だけど」


 明日は浜辺にお供え物をして、祝詞のりとをあげる。わたしの出番はその後になる。神社でも祝詞をあげて、お供え物のお下がりを皆で食べて眠らずに過ごす。そんなふうに聞かされている。子供のころはおこもりの翌朝、おばあちゃんが持ち帰るお下がりを楽しみにしていたな。


「わたしなんかより、宮司ぐうじさんに直接話を聞いてみたらどうかな?」

「けんもほろろにあしらわれて来たよ。ここの人達はあまり人好きしないみたいだね」


 わたしの提案に苦笑する宗也さん。失礼な話だが、貰った名刺の字面を思い出し納得してしまう。もうちょっと学者然としたなりで、大学教授の肩書きでも記してあれば、少しは相手をしてもらえたかもしれない。美魚みおを紹介してあげられればと考えるも、手伝いが終わらないのかいまだ合流できない。


「明日時間があれば、資料館に来てもらえないかな? こっちも資料を揃えて説明出来るし、お互い話をまとめやすいだろうから。お昼くらいはご馳走できるよ」 


 どうしよう。お昼からは自由にできる時間がある。わたしは時間が取れればうかがいますと、あいまいに応えるにとどめた。


「そういえば、車の中にいた子は一緒じゃないんですか?」

「彼女は眠っているよ。夜店も見せてあげたかったんだけどね」


 青年の表情がわずかに曇る。身体が弱い子なのかもしれない。不思議と興味をかれる少女だったが、気弱そうな彼の憂い顔を見ると、重ねて問うのはためらわれた。


「よっしゃー! 賞金ゲット!!」


 ずっと静かだったユリカの歓声に振り返ると、きれいにくり貫かれたうさぎを高々と掲げ勝ち誇っていた。


 あれ? 馬に挑戦してたんじゃなかった?


         §


 夢を見た。


 幼いユリカやみゅうみゅうと一緒に宗也そうやさんの授業を受けている。

 夜店に囲まれ、わたしたちは型抜きやりんご飴に気をとられうわの空。


 先生役の宗也さんも、なぜだかわたしたちと同じ幼い姿。

 困り顔で授業を続けるも、わたあめや焼きそばやに気をとられうわの空。


 そんなわたしたちを、優しそうな女の人が微笑みながら眺めている。


 誰なんだろう。顔はぼやけてよく分からないのに、なぜだかとっても安心できる。

 勉強なんかしてられない。いつの間にか、授業は夜店まわりに変わっていた。


 目覚めたると溶け去った夢の記憶の中に、懐かしい気持ちだけが残っていた。

 胸をしめ付ける郷愁きょうしゅうに、写真も残っていない両親の事を少しだけ想った。


         §


 おこもりまでの時間、どう過ごそう?



海斗と話す。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054884676877/episodes/1177354054884677538

友人たちと過ごす。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054884676877/episodes/1177354054884677550

宗也を訪ねる。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054884676877/episodes/1177354054884677583

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