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よろずやの婆ちゃんの車ではなさそうだ。ユリカが言うにはアメリカ製の軍用車両の
この車幅じゃ入れない道も多いのに。どうするつもりなんだろう?
「ちょ、いくみんっ!」
肩を叩かれ、友人の慌てた小声に振り返ると、店から出てくるひょろ長い男性と目が合った。
どうしてだろう。いまにも泣き出してしまいそうな――
のっぺりとした薄い顔に突然浮かんだ表情に戸惑うわたしを尻目に、彼は笑顔に変わり話しかけた。
「ごめんね。邪魔だったかな?」
「う……あ!? のぞいてません! いや、のぞいてごめんなさい!!」
目まぐるしく入れ替わる青年の表情の意味をつかみかね、混乱したわたしは不明瞭な弁解をくりかえす。
おかしな間は、引きつった顔でわたしをながめていたエリカのもらす「ふひっ」という声をきっかけに笑いで流された。
ひとしきり笑ったあと手渡された名刺には、「
「変わった祭りだからね。見学がてら、話を聞ければと思って」
そうなんだろうか? 地元の風習がよそから見て
「
わたしたちが目にすることのできる、浜辺の祭壇にお供え物をするところまでは、以前と何も変わりない。大人たちの会話から、
「興味深いな。どう変わったのかを詳しく知りたいね」
この青年が調べたかったのは、以前の祭祀のほうだろうか。
「何百年も変わらない祭りのほうが珍しいし、どんな儀式でも本来の意味は忘れられ
るものだけど。語り手がいるうちに、記録を残しておかないとね」
「いくみんは昨日習った
「……君も祭祀に参加するのか? 差し支えなければ詳しく話を聞きたいな」
にやにや顔で混ぜっ返すユリカの言葉で、わたしが巫女だと知った素人学者の目に興味の色が浮かぶ。
わたしは今年から初めておこもりに参加する身だし、ユリカの言うように祝詞の意味どころか文言すらうろ覚えだ。数年前から神社の手伝いをしている美魚のほうがずっと詳しいだろう。拝島の伯父や宮司を紹介しようにも、残念ながらどちらもよそ者に快く話しを聞かせるような人達ではない。
青年の期待にうろたえ、あわあわと思考をめぐらせるわたしの耳に、不意に車内からの声が飛び込んだ。
「agsjkieye?」
「うん??」
語尾のあがった疑問形。
なんて? わたしに
真っ白な肌に、真っ黒な髪。
窓越しに語りかけた少女は、人形めいた顔に
「キィ、もう少し寝ていればいい。買い物は済ませたし、じきに目的地だよ」
なかば閉じられた、真っ黒な瞳がわずかに動き、青年をとらえる。
不満も
隣町には駅前に宿泊施設があるが、岬の先端、山と海の狭間にへばりつく様にたたずむこの
「……なんか変な人に会っちゃったねえ」
「うーん、イケてなくはない。60点ってトコかな?」
聞いてないよ。
人間の顔の平均を取っていくと、端正な顔立ちになるという話を聞いたことがあるが、彼の場合は悪い意味でも目立たない顔立ちといったところか。
素人民俗学者の車を見送ると、そろそろ
浴衣姿に着飾った女の子が、両親に手を引かれ
「いくみんも着替えてきなよ。今夜は楽しもう!!」
射的をする
https://kakuyomu.jp/works/1177354054884676877/episodes/1177354054884677030
金魚掬い
https://kakuyomu.jp/works/1177354054884676877/episodes/1177354054884677080
型抜き
https://kakuyomu.jp/works/1177354054884676877/episodes/1177354054884677229
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