~~~
焼きそばのソースやわたがしの甘い香りに気を取られながらふわふわと歩いていると、ユリカに浴衣の
「待った! 食べ物で手がふさがる前にやっていこう!!」
射的かあ。
安っぽいアクセサリーや
ユリカはこういった獲得型のゲームが好きだ。一度火がつくとUFOキャッチャーには幾らでもコインを注ぎ込んでしまう。今回のお目当ては一番目に付く大きな熊のぬいぐるみ。でも、ああいうのは倒れないようになってるんじゃないの?
「ぐぬぬ……お兄さん、もう一回」
案の定、500円で交換した6個のコルクでは、わずかに位置をずらすに終わってしまった。固定するような不正はないようだが、安定感にあふれどうにも無理っぽい。目玉の一つだから、簡単に取らせないつもりなんだろうけど。
手伝うつもりで500円を支払い銃にコルクを詰める。全ての弾をぬいぐるみに当てている友人と違い、わたしの弾は見当はずれの場所に飛んでしまう。
2発目で熊の隣に置かれた、聞いたことのないメーカのキャラメルを倒したけれど、狙ったのは熊のお尻のあたりだ。ソフトボールなら部でピッチャーを任せられるくらい、コントロールには自信があるのに。
「……狙い通り」
にやにや笑いを浮かべるユリカと、視線を合わさないようにしながら3発目を詰めていると、ひょいと後ろから銃を奪われた。
「海斗!?」
いつの間にか、
わたしより頭ひとつ分高い彼は台から身を乗り出すと、片手持ちの銃でわたしのコルクを2つ使い、手際よく熊を棚から落としてしまった。
「ちょ……追い詰めたのはわたし!!」
「兄ちゃん、ちょっと身を乗り出しすぎなんじゃねぇか?」
「あぁん?」
1500円をつぎ込んだユリカの抗議を聞き流し、
長身なうえ目付きが異常に鋭い。半袖のシャツからは空手の道場で鍛えた上腕が覗いている。海斗が土地の実力者、拝島の長子だと気づいていなかったとしても、的屋の店主が愛想笑いで引き下がるのも無理は無い。
「…お前は?」
無言でぬいぐるみを押し付けられ、微妙な表情で受け取るユリカを尻目に海斗が問う。単語を放り投げるような話しかたは、悪ぶってる訳じゃない。いじめられっ子だった幼い頃とまるで変わっていない。
ユリカに付き合っていただけで、お目当てのものがあるわけじゃない。しいて言うなら、祭り気分のままこの場で身に付けられるような――。
ふらふらさまようわたしの視線を読んで、海斗は銃をアクセサリーの掛けられた台に向ける。1発で射止めたのは、緑のガラス球が
不意に海斗が手を伸ばしてくる。びくりと身をすくめるわたしに構わず、首の後ろに手を回しネックレスを掛けてくれた。
一部始終をにやにやと見守っていたユリカに
「おやあ? いくみんもまんざらでもない?」
からかうようなユリカの声。わたしが胸をかき乱されたのは、体温を感じるほどに近づいた海斗の胸や腕のせいだけじゃない。
『本宮には出るな。後で大事な話がある』
耳元で囁かれた言葉。
意味が分からなかったからじゃない。その言葉はわたしの抱くぼんやりとした不安に、いびつな形を与えるものだったから。
その夜ユリカとまわった屋台の食べ物の味は、どれもほとんど味を感じられなかった。
§
夢を見た。
場所は神社の境内だろうか。
わたしは海斗とおままごとをしていいる。
微笑ましい光景だけど、おわんをさし出す心は今のわたし。
もうすぐ日が落ちる。
いつまでもままごとを続けることは不可能で、
そろそろ帰る時間だと海斗に伝えなきゃいけない。
きっと泣き出してしまうだろう海斗をどうなだめようか。
笑顔でおわんを受け取る海斗を見つめながら、
そんな事をずっと考えている。
寂しさを感じているのは、幼いわたしか今のわたしか。
もう少しだけ、付き合ってあげようか。
茜色に染まる景色の中、二人でおままごとを続ける。
目覚めたときには内容は覚えていなかったけれど、
わたしの中にはただ懐かしさと寂しさだけが残っていた。
§
おこもりまでの時間、どう過ごそう?
海斗と話す。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054884676877/episodes/1177354054884677353
友人たちと過ごす。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054884676877/episodes/1177354054884677379
宗也を訪ねる。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054884676877/episodes/1177354054884677388
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます