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「とりあえず、おこもりだっけ? 本宮ほんみやに出ればいいんでしょ?」


 ユリカの助言はいつも端的たんてき明瞭めいりょうだ。

 明日の本宮に参加すること。わたしにとって伯父の言い付けは命令と同義で、背くという選択肢は考えられない。


 ユリカはその言い付けを守ることを含め、神職の修行をこなすのと引き換えに、考える時間が欲しいと言って進学すればいいと言う。


「学費はアルバイトで稼げばいいじゃん! 何だったら、二人で部屋借りてさ。母さんのツテで安く借りられるアテあるし。きっと楽しいよ!」


 ショートボブの髪を揺らしながら隣を歩く友人は、とっくに自分の進むべき道を決めているらしい。隣県の大学一択で、あれだけ頑張っていた陸上部も夏に入る前に辞めてしまっている。


 小柄だが行動力にあふれた彼女とは高校に入ってからの付き合いだけど、優柔不断なわたしの背中を押してくれる頼もしい存在だ。購買の自販機前で、微糖と無糖のコーヒーを決めかねるわたしの代わりに押してくれたボタンはコーンポタージュのものだったけれど、あれはあれで美味しかったし。


「その前に、入試通んないとだけどね!」


 大きなあくびをあわててかみ殺すわたしを、親友はやれやれといった目で見る。

 宵宮よいみやの今日、作法や祝詞のりとの勉強からも開放され、わたしは自由な時間を楽しんでいる。


 子供のころは、本宮は夜に出歩いてはいけない日でしかなく、おばあちゃん達はお宮で何をしているのかいつも興味津々だった。こっそりのぞこうとしたこともあったけれど、実行するにはわたしは寝付きが良すぎ眠りが深すぎた。


 巫女として習ったことは、夜がふけてから海から上がって来る神様をお迎えし、夜明け前にお送りする儀式。神様に行きったり、姿をのぞき見てはいけないから、夜出歩く事を禁忌きんきとしているのだという。


「コンビニも無いし、この町で夜に出歩くも何もないじゃん?」


 勉強会を終えた昼下がり。ぼやくユリカと連れだって向かうのはショッピングモールではなくよろずや。

 鉄道の駅が無いため、まともな買い物は橋を越えた隣町へ行くか、通販で済ませるしかない。セミリタイアでわざわざ望んで僻地へきちへ越した父親に対する愚痴は、彼女から飽きるほど聞かされた。


 金物から駄菓子まで必要なものはほとんど手に入るので、わたしには不満は無いのだけれど。下着もここで買えるシンプルなもので済ませていると伝えたところ、何故だか長々と説教され、以来身に付けるものはユリカの買い物に付き合う形になっている。


 いつも通りにひよこサイダーを買うはずの、いつも通りのひなびた店先には、いつもと違う強烈な違和感が存在していた。


https://kakuyomu.jp/works/1177354054884676877/episodes/1177354054884677070

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