~~

 ユリカは獲得型のゲームに目がない。ヨーヨー釣り、スーパーボール掬いと続けた後なのに、いまわたし達がいるのは金魚掬いの屋台の前だ。


郁海いくみさんは金魚を捕まえるつもりでやります? それとも、助け出してあげる感覚?」


 明日の準備の手伝いを終え、巫女装束のまま合流したみゅうみゅうが問う。


「うん?」

「これって、金魚をから金魚すくいって言うんですよね。昔は水槽から金魚をから金魚すくいだと思ってました」


 美魚の言うことも少しわかる気がする。


「それじゃ競争ね。ビリは次の屋台で奢り!」


 ユリカは狩る気満々で、救い出すって雰囲気ではないけれど。

 言うだけのことはある。コツを心得ているのか、ユリカは2匹、3匹と順調に椀に金魚を救いあげて行く。


「ユリカさん、その程度じゃダメダメです」


 美魚がたおやかな手を差し伸べると、それこそ救いを求めるかのように、金魚たちはポイに吸い込まれる。ギャラリーの子供達の歓声のなか、わたしは水槽の端のほうにいる白い金魚に目を付けた。


 弱々しく泳ぐ赤い目をした小さな魚は、わたしの差し伸べるポイにからかうように寄り添っては、たわむれるようにすり抜ける。それでもなんとかポイが破れる前に掬い上げることができた。


「どうするんです、その金魚?」


 8匹救い上げたユリカは、元気そうな2匹だけを持ち帰る事にしたらしい。27匹を椀に掬い上げた美魚は、景品との交換を希望し、風呂に浮かべるぜんまい仕掛けの魚のおもちゃを手にしている。


「うーん……つれて帰る」

「すぐに死んじゃいますよ?」


 どこかめた目付きで美魚が言う。

 礼儀正しく気立てのいい子なのに、時々驚くほど冷徹な物言いをすることがある。特にここ最近になってから顕著けんちょな気がする。


 初めから元気が無かった子だ。屋台に返しても、店を畳むまで生きていられるか分からない。的屋てきやのおじさんにとっては商売道具でしかない以上、明日にはあっさり処分されてしまうかもしれない。


「救っちゃったからねえ」


 目線の高さに持ち上げ金魚に話しかける。

 ビニール袋ごしに見える美魚の冷笑には気づかない振りをした。


         §


 夢を見た。


 物置から出した金魚鉢に収まった金魚は、少しだけ元気になっている。

 水草も入れたし、水温にも気を使ったかいがあるというもの。


 救ってくれてありがとう。


 金魚は小さな泡と共に礼をのべる。


 どういたしまして。本当はもっと広い池を泳ぎまわりたい?


 金魚はもともと金魚鉢の中で命を終えるものでしょ?

 広い池に放り出されても困ってしまう。


 子供の声で、しかつめらしく応える金魚。


 それは今のあなたも同じでしょ?


 金魚の指摘に、わたしは辺りを見回してみる。

 狭い部屋。窓はあるけど嵌め殺しで、どこにも扉が見当たらない。


 そうだね。それじゃあ囚われどうし、いっしょに遊ぼうか。


 浮かれた金魚は金魚鉢を飛び出し、部屋中をぴちぴち跳ねる。

 慌ててどたばた捕まえようとして、なんだかおかしかった。


 目覚めたとき、金魚は横になって金魚鉢の中に浮かんでいた。

 少しのあいだ悲しい気分に浸ったあと、わたしは庭に金魚の小さな塚を作った。


         §


 おこもりまでの時間、どう過ごそう?



海斗と話す。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054884676877/episodes/1177354054884677465

友人たちと過ごす。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054884676877/episodes/1177354054884677483

宗也を訪ねる。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054884676877/episodes/1177354054884677494

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