第24話 父さん、陰口をたたく
大隈課長の指示が宙ぶらりんになる中、僕はこれまでの営業5部の仕事を続けることにした。けど何かスッキリしない。誰かに自分のことをずっとのぞかれている気がして落ち着かない。
というか、いくらサバイバルな会社だからって課長クラスがこの時期に左遷とかおかしいだろ。それにあの程度の事が左遷の理由になるなんて普通ならありえないし。何か別の理由があるはず。
そう思った僕は、それとなく隣の席の中川さんにこれまでの会社の状況を聞いてみた。
「いや、今までそんなことがあったとは聞いたことがないな。確かに出世争いが激しい会社ではあるけどね」
「じゃあ大隈課長に根本的に問題があったってことですか?」
「まあ自己中でちょっと嫌われ者かもしれないけど、問題を起こすような人ではなかったよ。噂とは別の事情があったんじゃないかな? 今回の処分は降格とかではないし、肩書とかは変わらないけど、出世コースからは外れたよね」
「課長は出世コースに乗っていたんですか?」
「うん。福沢課長と同世代らしくて、二人とも早くに課長になったんだけど、性格が真逆で仲が悪かったらしいよ」
「あ、それなんかわかる気がします」
「ただね、この営業部自体を快く思っていない執行役員がいるといういう噂があってね」
「え? 営業部なかったら商社なんか成り立たないじゃないですか!」
「そう。だからだいたいどの会社も営業部の力が強いわけだけど、うちはちょっと変わっててね、最近外部から抜擢された業務管理部の女性執行役員が社長の座を狙ってるという噂があるんだ。で、彼女が営業部の内部不正の摘発に力を入れるとかなんとか」
「え? そんなこと言っちゃうんですか? 証拠あったとしても言葉にしにくい話じゃないですか! 会社としての信用問題にかかわるし、普通口に出して言わないですよね?」
「うん。で今回の大隈課長の左遷がその影響かどうかはわからないけど――あれ? 君呼ばれてるよ?」
そう言われて僕が振り向くと、先日会った人事担当者に手招きされていた。
☆☆☆
「私は業務管理部人事課の
謎の人事担当者に名乗られ、それと同時にもう一つの謎が生まれた。
いや、謎じゃないな。話の出所はどう考えても父さんだろう。父さんはきっと僕の入社をかぎつけ、『新島が前職で問題を起こしたせいで会社がつぶれた』とかでっち上げて入社したんじゃないだろうか?
「今回は何をたくらんでいるのかね?」
「特に何もたくらんでおりませんが、人事というのは噂だけで人を評価するところなんですか? 確かに僕の入社の経緯がイレギュラーだということは自覚してますが」
「証拠をつかんでからでは遅いんだよ。会社に損害が出る前に対処しなければね」
……この人何を言ってるのかよくわからないんですけど。
「では話を切り分けて考えていただきたいです。僕の噂が杉浦さんからのものであるなら、僕と杉浦さんが在籍していた会社の社員の方に裏を取っていただきたいです。一方的な意見を元にレッテルを貼られるのはさすがに納得いきません」
「なるほど。それで?」
「あなたの言う『損害』が何を指しているのかわかりませんけど、実際に僕に割り当てられた仕事、どうなるんですかね? 5部の仕事も4部の仕事も同時にこなすことなんて普通できませんよ。仕事を無茶ぶりして対応できないまま放置させておいて、その結果を『損害』にするつもりですか? そしてそれは僕のせいである、と?」
「営業部の事情は私には判断できないし判断する気もない。君がどれだけ仕事を潰そうが営業部の責任だからね。だいたい君を採用したのは我々ではないし」
「あの、榊さん、すみませんが話が見えない。僕にどうしろと?」
「どうしろも何も、会社として問題が発生しそうなところには対処しなければならない。それだけのことだ」
「僕に辞めろと言ってるわけですか?」
「そんなことは言っていない」
「ではご用件は何ですか?」
「君が何をたくらんでいるのか知りたいだけだ」
「ですから何もたくらんでませんが。といいますか私、営業部の人間ですので、営業成績で判断していただきたいんですが?」
「その成績が不正から生まれたものであったとしても?」
さすがにカチンときた。
「榊さんが杉浦さんの話をどれだけ信用されているのか知りませんけど、人事の方って、もっと人を見る目があるかと思ってました。残念です」
「……何が言いたい? これでも私はこの会社で多くの部署を経験してきたし、人を見る目はそれなりにあるつもりだが?」
「言葉通りの意味ですよ。本当の会社クラッシャーも見抜けないようではこの会社も長くはないですね。失礼します」
そう言って僕はその場を去った。
☆☆☆
ダメじゃん!!!
僕、完全に悪者じゃん!!!
そしてそれを上塗りするようなヒール発言しちゃったよね?!
確かに榊さんは嫌な人だったけど、最後のあの捨て台詞は自分でも言ってはいけないと思った。
ただ、その中でも自分の中で考えが整理できた気がする。まず、この会社に対する忠誠心は、完全になくなった。仕事しようがしまいが評価されない、ということが彼から明確に突きつけられたし。別に人に評価されたいと思って仕事してるわけではないけどさ、それでも社会に貢献してるやりがいというか、目的意識って大事だと思う。どうせ働くなら自分が必要とされているところで働きたい。でも残念なことに、福沢課長がいない今、この会社における僕の存在意義はゼロ以下で、マイナスで、存在自体が望まれていない、ということがわかった。
ただ、それでも自分からこの会社を辞めようとは思わなかった。むしろ自分の中に眠っていた闘争心に火がついた気がした。僕にだって男の意地がある。あんな人に負けたくない。だからもしここで自分から辞めたら、絶対後悔すると思った。そして、今まで一人で頑張ってきた福沢課長がなぜ逃げ出さなかったのか、その気持ちがわかった気がした。
福沢課長には絶対に戻ってもらえるよう、僕が頑張るしかない!
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