第4話 父さん、コミュ障無双する
「というわけで譲くん、君にやってもらいたいことがあります」
席に戻ると、父さんが真顔で迫ってきた。
「……なんでしょうか?」
僕はぶすくれながら答えたが、父さんは意に介さないように続ける。
「先程私が言った通り、大至急、件のフィリピンの会社に連絡を取り、契約違反については寛大な処置をとるからうちに対する部品の供給を再開するよう、交渉して下さい」
「それ、左京さんがやるって言いましたよね? 部長に」
「その部長が君に私の言う事を聞くように命令したわけですよ。君の語学力が役に立つかどうか、私に見せてもらえますか?」
この人の話を聞いてると腹が立ってきてしょうがないが、我慢だ、我慢……。
「左京さんが営業で相手の得意先と交渉したことについてはどう話したらいいですか?」
「謝ってください」
「え?」
「謝らなければならないに決まってるでしょう! あの会社からの部品供給がなされなければ、我々は信用を失います! それを避けるためには謝るしかない。そんな事もわからないのですか?」
「じゃあ左京さんの新規の営業先はなくなると思いますがよいですね?」
「それについては態度を保留してください」
「……どういうことですか?」
「だってうちにとっては部品の供給が再開され、新たな営業先も確保できれば一番いいわけですよ。そんな事もわからないのですか?」
「そんな虫の良い話、相手が飲みますかね?」
「交渉して下さい」
「交渉って言っても……」
「あーもう! 君はバカだなぁ! いいですか? 今回の件、先に契約を破ったのは、相手ですよ? それについてはうちは不問に付すと言ってるんです!」
この人、言ってることがむちゃくちゃだ!
「それだけの条件では供給は再開されないと思いますが……」
「君は電話もかけずに何をわかったような口を聞いているんですか!」
「だって、供給を止められたのって、左京さんが相手のクライアントと話したからなんじゃないですか?」
「確かにその可能性もあります。ですが現段階では断定できません。ですから事実確認して下さい」
「そんなの、まじめに答えてきますかね? 相手は意図的に契約違反してるわけですよね?」
「何をわかったような口を聞いているんですか! やってみなくちゃわからないじゃないですか!」
「……それで相手が供給を断る理由がわかったらどうすればいいんですか?」
「調整して下さい」
「どうやってですか?」
「はー! 意気地なしの君の話にぐだぐだ付き合う暇はないんです! あれこれ言わずにすぐに電話したらどうですか!」
「わ、わかりましたよ。電話してみます、とりあえず……」
父さんの言うことはまったくつじつまが合ってないと思いつつも、僕はフィリピンに国際電話をかけた。
『Hello?』
「Hello,this is Yuzuru,calling from Nishida Shoji Japan. Could you please――」
ガチャッ‼︎
ツー ツー ツー……
「……左京さん、ガチャ切りされちゃいましたけど……って、あれ?」
父さんはいつの間にか姿を消していた。
☆☆☆
戻って来ない父さんに何も報告できないまま、僕は一人考える。
フィリピンにあるうちの会社の支社って、ペーパーカンパニーらしい。つまり現地に担当者が置かれていないから、今後相手と話し合うとしても直接現地に行って交渉するしかないけど、それは父さんの仕事だよね? これ以上僕に求められるのはさすがに違うよね?
そんなことを思いつつも、相談できる人は営業部には誰もいない。
しょうがなく、僕は再び人事部の乙坂さんのところに向かった。
「……マジで?」
「はい、マジです」
僕が経緯を話すと、乙坂さんは頭を抱えた。
「営業部の事は俺もわかんないんだけどさ、新人の君にそこまで責任をかぶせるのはどう考えてもおかしいと思うよ」
「どうすればよいでしょうか?」
「うーん、そうだね、俺の方から社長に相談してみるから、待っててね」
「お忙しい中、すみません……」
「いやいや、理不尽な仕事を新人に押し付けて優秀な人材に辞職されたら人事部としても困るからね」
「ありがとうございます」
まあそう気を落とすなよ、と乙坂さんに声をかけてもらいながら、僕は席に戻った。
☆☆☆
「譲くん、どうでしたか?」
僕より先に戻って来ていた父さんに、さっそくせっつかれる。
「電話ガチャ切りされました」
「何回かけたんですか?」
「3回です。全部向こうから切られましたが」
「メールは送ったの?」
「送りましたよ。まだ返事来てないですけど。CCに左京さんも入れてますよね?」
「もう一回電話してみて」
「いいですけど、左京さん、ここにいてくれますか?」
「な、なんで私が君の仕事に付き合わなければならないんですか?」
「僕もおかしいと思うんですよ。なんで新人がこんな大事件の責任を負わなければならないのかなって!」
少し言い返してみた。
「君は部長から、私の言うことを聞くよう言われていますよね?」
「では伺いますが、もう一回電話して、それで相手が出なかったらどうするんですか?」
「会話が成り立つまで電話してください」
「10回でも20回でもですか?」
「はい」
「100回でも1000回でもですか?」
「いや、そういう極端な話ではなくてですね」
「すでにそんな段階ではないと思いますけど。現地に行って交渉するしかないと思いますけど?」
「はい?」
「この件の担当、左京さんですよね? 私が明日から出勤しなくなったら、左京さんの責任ですよね?」
「…………」
「もう一度電話しますが、それで同じように切られたら、左京さんが現地で交渉してくる、それでどうですか?」
「わ、わかりましたよ」
「じゃあかけてみますね」
そう言って僕は電話を取った。
『Hello?』
「Hello,this's Yuzuru,calling from Nishida Shoji――」
ガチャッ‼︎
ツー ツー ツー……
「切られました」
「…………」
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