ちょっと待て!~私がイケメンを養うと決めた時~
綾幸
プロローグ
人生って「勝ち組」と「負け組」の2種類しかいない。
お金はお金を呼ぶということで、最初から持っている人のところにしかいかない。
どれだけ努力をしても、才能がある人の足元にはとても及ばない。
そんな理不尽な世の中で生きていくためには「妥協」が必要なのだと知ったのは、中学生の時だった。
一定の距離を保って人付き合いをすれば、不必要なもめ事は起こらない。
ただ、その距離を超えて起こる友情的なイベントは一切ないのだけど。
別にそれはいい。
人間と接するよりも、猫と接していた方が癒されるし、余計な問題は起こらない。
恋愛的なときめきを求めたければ、今は便利なものがある。
そう、乙女ゲームだ。
そこで「うわぁ」と思った人は、少し考えてみてほしい。
二次元の男性であれば、こちらを傷つけるような言葉も言わない。
めんどくさい付き合いなんかも必要ない。
飽きたら浮気(別の乙女ゲーム漁り)をしても、誰も何も咎めない。
少しだけ空しい気もするけれど、その気持ちさえ押し殺してしまえば、まさに最高の環境ではないだろうか。
決して、彼氏がいない言いわけではない。
私は彼氏が出来ないのではなく、作らないだけなのだ。
余計に負け犬っぽく聞こえたとしても、気にしてはいけない。
「……よし、今日のブログ投稿も終わり、と」
エンターキーを押して、ブログ記事の投稿を行う。
「相変わらず可愛げも何もない文章だけど、まぁ、別にいいよね」
「ネットは何を呟こうが関係ない。迷惑さえかけなければイタタでもいいでしょ」
テーブルの上に置いていたビールを飲み干した後、彼女は愛用の携帯ゲーム機を取り、最近ハマっている乙女ゲームを起動する。
「いやー、それにしても開発陣のネーミングセンスがすごいよね、これ」
「……ハレンチ☆ウララって、古すぎるのか斬新すぎるのか判断つかないよ」
「でもドストライクなイケメンばかりで嬉しいなー」
「大抵、乙女ゲームって「コイツ、ないわー」的なキャラが必ずいるのに」
「悪役である魔王でさえも愛しいって、何これ、終わったら周回するね、周回」
「昨日はメインヒーローのアドルフだったから、今日は魔術師のガレリーかな」
携帯ゲーム機を起動させると、80年代のノリのようなオープニングが流れ始める。
この逆の意味でハイセンスなオープニングも、最初こそ眉をしかめていたけど、慣れてくるとなぜか1日に1回は見ないと気が済まなくなるから不思議だ。
(こういうイケメンとの出会いとかあったら、仕事への意欲も出てくるのかな)
オープニングムービーで、決めポーズをするキャラたちを見ながら苦笑する。
実際にこんなことを現実の友人に話したら、病院に連れて行かれるかもしれない。
「……あれ?」
いつもだったら、タイトル画面に出てくるのは「new game」か「Continue 」の2つのみだ。
しかし、なぜか「Summons 」という項目が出てきている。
「何コレ、もしかして隠しイベントとか?」
「……いやいや、これ何度も周回してるけどこんなイベントなかったはずだけど」
ネット上の攻略サイトだって、こんな隠しイベントの存在は示唆していなかった。
「もしかして、バグ?」
そう思いながらも、好奇心を隠すことは出来なかった。
ポチッ!
私はこの時「好奇心は身を滅ぼす」ということわざを思い出すべきだった。
この時の行動によって、私の平凡な生活は一変してしまうのだから――。
To be continued
ちょっと待て!~私がイケメンを養うと決めた時~ 綾幸 @aya_yuki
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