粗チン童貞と好きな人と

3 外見と中身と聖なる剣と


「「えくすカリバー?」」


 我が家の居間。テーブルの向かい側に座る天原さんに向かって僕と母さんは同じタイミングでその名を口にした。


 神々しく輝く僕のちんちんは突如、部屋の外に漏れだすほどの光を放ち、それに気づいた母さんが部屋に飛び込んできたおかげ(?)で、今では落ち着きを取り戻したかのように何事も無くパンツの中でちんちんとして鎮座している。


「はい。えくすカリバーは世界の危機を救う唯一の武器です。それは数千年に一度、この世界に滅亡の危機が迫った時にのみ純潔な男性器に宿る聖なる武器なのです」

「世界の滅亡の危機って・・・・・・今いちぴんとこないんだけど、母さん知ってた?」

「う~ん。ママ、もうスパイは卒業して今はただの主婦だから、何にも知らないの。ハル君のエッチな本の隠し場所とか、内緒で買ったオシャレな勝負パンツとかしか分からないわ」

「何で調べちゃうの! 知ってても黙っててよ!!」

 

 ゴホン、と天原さんが咳払いをした。

「いいですか、今まさに、地球が大ピンチなのです。悪魔が襲来して世界各地で目も当てられないような悲惨な事件が多発しています。ここ日本でも残忍な事件のいくつかは悪魔の仕業によるものと報告が来ています。それを全て解決できる希望の光が翔春君!・・・・・・のチンチンなのです!!」

「ひ……悲惨な事件って?」

「暴力、破壊、詐欺、男性を不能にするなど、内容は多義にわたっているわ」


な……なんと恐ろしい。


「でも、こんなかわいらしいチンチンがどうやって世界を救うのかしら? 平和のシンボルとしてお神輿に掲げるとか?」

「母さん、真面目に考えてよ。ていうか何気に息子の息子を貶すの止めて。超ブルーになる」

「長さや大きさは関係ないのです! 聖剣に選ばれた人間は何らかの力を得て悪魔達から世界を守る英雄となる。天原家に古くから伝わるわらべ歌にそう記されています。」


 そういうと天原さんは立ち上がり、一度大きく深呼吸をしてからゆっくりと手拍子を始めた。大体83bpmぐらいのスピードぐらい。

それにつられて母さんも楽しげに手を叩き出す。


「も~ののけ江戸にきったときは~、えくっすかりばぁ~たずさえてぇ~、ずっばずっばずっばずっば扱きたまへ~ はんぁ~ ちっきゅうをま~もま~もま~もれや おんなしらずはしぬまでしらず かかってこいこいもののけやぁ~」

 手拍子が叩き終わり、母さんがうっとりとしながら天原さんに拍手を送る。

「素敵な歌ね。今の歌詞で大体の事は分かったわ」


 何が分かったんだ!全然わからんわ!!

 もう意味不明な単語と奇文だらけで頭が混乱してきたので、テレビでもつけて少し休憩しないとこれはもうアレです。辛いです。


『緊急ニュースです! 謎の未確認生物が市街地で暴れております! ビルや建物などを破壊して怪我人も多数出ている模様。近くの住民の皆様は安全が確認されるまで決して外へ出ないでください!! 繰り返します。謎の未確認・・・・・・』


 テレビを点けると通学の際に通る駅前のビルや建物等が黒いエイリアンのような生物にボロボロに破壊されている映像が映し出された。特撮ヒーロー物ではない、現実のニュースだ。


「えええええエクソダム!! こいつらです!! こいつらが世界を滅ぼすと言われているエクソダムですよ!!」

「まぁ! ハル君、グッドタイミングよ。いってらっしゃい」

「えっ?今まさに外に出ないでくださいってテレビで言ってたじゃん」

「あら、今あの怪獣みたいなのに立向かえるのはきっとハル君だけよ。ちなみに、お母さんはこれからちょっと用事があるからしばらく家を空けるわね。戸締りよろしく~」

「ちょっと用事って、母さん今出たら危ないって!」

「大丈夫よ。ハル君が何とかしてくれるも~ん☆」


 そういうと母さんはふらりと出て行ってしまった。

 昔からそうまけど無責任というか行き当たりばったりというか、なんて自由奔放な人なんだろうか。


「八代君。私達も現場へ行きましょう!」

「・・・・・・やっぱそうなります?嫌だな~。これぜったい僕が戦うパターンじゃないですか」

「つべこべ言わずに! せっかくえくすカリバーに選ばれたんだから、地球の1つでも救ってみせて!」

 

 天原さんに強引に引き摺られるように僕は危険生物が暴れている現場へ連れて行かれた。

戦い方も分からないのにどうやれば良いんだ? せめて光るチンチンからビームでも出ればなぁ……


 駅前に到着するとそこには無残な姿に変貌した建造物達があった。

 乗用車はまるで壊れた玩具の様に乱雑に転がっており、ビルの窓からは黒い煙が登り、道路に面した服屋、飲食店等のショーウィンドウは粉々に割られている。

 

 ボロボロにヒビ割れた道路の中心に、黒い影が見えた。家のテレビで見たアイツだ。

 それは人間に似た体型。2足歩行で歩く姿と黒光りする体の色以外はまるで巨大なカマキリだ。


「きしゃあああああああああっ!!」


 響き渡る咆哮。それを遠巻きで見る人々はスマホを片手に理解できぬ使命感を持ったのだろうかムービーを撮影する。誰に見せるんだろうそれ。


「さあ八代君、アイツを倒すわよ!」

「倒すって、どうやって!?」

「その『えくすカリバー』は万物を貫く聖なる剣。ヤツにその一撃を食らわせればきっとイチコロよ!」

「無理むりムリ! そんなの信じられないし絶対死んじゃう!!」


 どう考えても、ただ光っているだけのチンチンであんな化物を倒す事なんかできやしない。しかも今現在、僕のチンチンは光るどころか、緊張と恐怖によっていつも以上に小さくなっている 。


 天原さんと言い争っていると周りにいた野次馬が一斉に悲鳴を挙げだした。

 どうやらあの化物がこちらに向かって歩いてきているようだ。


「許可無くスマホで俺を撮るなぁぁぁぁああああ!!!!」


 化物の怒声がまるで日本語でそう言っているような気がする。現代の日本人における危機意識は低いけど、流石にここまでくると皆逃げ出したくなるのは当然だろう。

 化け物はゆっくりと両手に備わった大きな鎌を振りかざし、まるでブーメランのように僕達の方へ飛ばしてきた。


「危ない!!」

 ビュンビュンと風を切り裂き円盤のように回転しながら物凄いスピードで飛んでくる鎌。天原さんは咄嗟に僕を抱えて迫り来る鎌をギリギリのタイミングで回避した。

 鎌は天原さんの右腕をかすり、やがて弧を描いて元の持ち主の場所へ戻っていった。


 少しかすっただけなのに彼女の制服はボロボロに破れて血が細かくにじみ出ている。

 あと少し避けるのが遅ければ二人とも鎌の餌食となっていたことだろう。


「天原さん!」

「大丈夫、かすっただけ。それよりも、このままだったら確実にアイツに殺されるわ」

「でも、どうやって戦えばいいか・・・・・・ちんちんは全然光らなくてウンともスンとも言わないし」

「・・・・・・こうなったら仕方がないわ。八代君、スク水とバニーガール、どっちが好き?」

「スク水です。それも旧式の」

「わかったわ」

 咄嗟に答えてしまったが、こんな状況で何を言っているんだ彼女は。

 背負っていたスクールバッグを地面に置いて「これじゃないこれじゃない」と言いながらチクワとか薬缶とか招き猫とかを中から投げ出した。


「みつけた!!」

 やっとこさスク水を出してバーンって誇らしげに見せつける。というか何故持っている。

「ちょっと着替えるからこっち見ないでね」

「え、あ、はい!」


 天原さんに背中を向けると正面からは化物がこちらに向かってゆっくり歩いてくるのが見える。そりゃあそうだ、この辺りにいるのはもう僕らしかいない。


「ちょーーー! どうしたいんですかコレ、僕は結局何をすれば!?」

「出来たわ。さあ八代君、こっちを見て頂戴!!」


 そこにいたのは紺色のスクール水着を着た天原さんだった。

「なにやってんですかこんな時に!!」

「どう? お望みの旧型スクール水着よ。やっぱり旧型だから伸縮性が無くて私にはちょっとキツかったけどなんとか着れたわ」


 確かに現行の水着と違ってこの頃のスクール水着は伸縮性が無いためか、長身で胸の膨らみは人並みの先輩には少々タイトな仕上がりに見える。

 しかし、そのお陰で彼女のスタイルの良さが充分に際立ち、そのキツキツに締め付けられている肉感、水着の上に少しだけはみ出た皮下脂肪が本来のスクール水着が持つ純潔さと相反するセクシーさとが複雑に絡み合い、尚且つ、締め付けられて息苦しいが故に呼吸への負担がかかり肩で息をするほどになっている。結果、顔は恥ずかしさもあるのか紅潮し、脈動のうねりが腹部に現れて非常になまめかしく旧型スクール水着のの新たな可能性がここに誕生したと言えよう!


「ちんちんが・・・・・・熱いっ」

 下半身の奥底に煮えたぎる何かがあるような感覚。と同時に服の上からでも分かる程、眩い光が漏れている。

「遂に覚醒したのね・・・・・・えくすカリバーが! 八代君、今のあなたならあの化物をやっつけられるわ。お願い、戦って!!」


 股間から全身に力が行き渡るのを感じる。

 そして体全体が光輝き、身に纏っていた衣服は全て塵となって消えていく。

 

 これなら、行ける!

 僕は一糸まとわぬ姿でカマキリの化物へ殴りかかった。カマキリとよく似た小さな顔面へ拳を当てる。

 自分の体とは思えないほど勢いよく繰り出されたパンチはカマキリ頭の顔面にめり込む。その衝撃で錐揉み状に回転し吹き飛んでいった。コンクリートの建物に体全体がめり込み、カマキリ頭はピクピクとしている。


 すごい。僕の体は驚くほど身体能力がパワーアップしている。まるでスーパーサイ何とか人だ。全裸だけど、股間を中心に恒星のように光り輝いているから周りから裸には見えない!多分!


「今よ八代君! あなたの『えくすカリバー』でそいつを突き刺して!」

「えっ!? 突き刺すんですか!?」

「そうよ。じゃないとその化物を浄化できるのはそのちんちんだけ。今のうちに早く!」


 全く未知な物に自分のちんちんを入れるのはすごーく嫌だけど、それしかヤツを倒せる方法がないなら仕方ない。行くぞ!


「うおおおおおおおおおおっ!!」


 僕は全速力で走り、その勢いを殺さずに気絶しているカマキリ頭の体へ抱きつくように飛び掛った。

 

 ザクッという音を立てて僕のチンコが固そうな体を貫くと怪物は断末魔の叫びをあげて光に包まれた。


 そして巨大な爆発。

 カマキリ頭は塵ひとつ残らず消滅したようだ。


 僕のちんちんは役目を終えたのか、それともアイツを貫いたときに感じた寒気を感じるぐらい妙な感触のせいか発光は収まり、いつもの粗末なチンチンに戻っていた。


「やったわね、八代君」

「天原さん・・・・・・」

 スク水姿で満足げな表情で出迎えてくれた天原さんは僕にちょっと大きめな制服の上着をかけてくれた。


「えくすカリバーは持ち主の感情が高まった時に発動するの。そのサポートをするのが天原一族の努め。でもまさか私の生きているうちに本当に出番が来ちゃうなんて思わなかったわ」

「天原さん、僕のためにそんな格好までしてくれたんですね」

「べっ・・・・・・別に八代君のためだけじゃなくて、世界を守るために仕方なくなんだからね!!」

「すみませんっ! 調子に乗りすぎました。」


 天原さんが顔を真っ赤にして否定しているけど、僕はなんだかその言葉とは裏腹な表情がとても愛らしかった。


「とりあえず1体目は倒したから、あと99対、一緒に頑張って倒そうね!」

「あーやっぱり、今のカマキリみたいなのってザコっぽかったですもんね。そりゃあ他にも強いの残ってますよねそうですよね・・・・・・」

「あたりまえでしょ! もっとかわいい衣装も沢山用意してるんだから着ないと勿体無いじゃない。覚悟してよね! 八代君!!」


 満面の笑みを見せる天原さんに満更でも無い返事をするぼく。

 まったく、敵を倒したいんだかコスプレしたいんだか一体どっちなんだろうか。

 僕のちんちんは淡く優しい光を放っていた。



 

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